曇天の続き

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2026-03-02 Mon.

無鳴

2026-03-02

27年と5か月。
特別な人に会いたかった。

夕方に予定を入れられそうになり、「申し訳ないけど今日は帰る、絶対に」と断固拒否し、有無を言わさない。
キャリアを重ねてきた事実と自信があるから、こんなことも言ってしまえるのだ。
今日のために仕事をしてきてよかった。

六本木の地の底から這いあがり、六本木通りを進む。
今日は眼鏡ではなくコンタクトレンズを装着し、朝から生活をしている。
近視用のコンタクトレンズは、近くの小さな文字が見えづらい。
スマートフォンの画面はもちろんのこと、書類も、デスクのディスプレイも、文字が読み取りにくい。
ただでさえ気分が高揚にしているのに加え、視界に難があるため、今日はほとんど仕事にならなかった。

階段をのぼり、ビルの下に到着。
記録を見返す限り、六本木ヒルズで映画を見るのは、23年ぶり3回目。
ここで見た映画は、「CUBE2」と「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」。
事の次第を思い出せないが、それらを見たのはそれなりの事情があったのだろう。
当時は、TOHOシネマズに買収されていたものの、まだヴァージンシネマズだったはず。
20年以上時間が空いていたとは、少し意外。
その間に1度、シネマート六本木に行ったように記憶するが、記録が見つからない。

すでに20年以上が経過している六本木ヒルズを「未来の象徴」のように感じるのは、きっと世代のせいだ。
こんな感覚を持つこと自体、時代遅れなのだろう。

TOHOシネマズの施設にも、時間の経過を感じる。
ヴァージンシネマズだった経緯から、ロビーは空港や航空機をイメージした内装となっているが、この水のカーテンの壁は何だろう。
上の階の通路は床面に照明が埋め込まれ「近未来的」だし、壁面の低い位置は靴の汚れが目立ち、壁紙が剥がれている。

入口でチケットを見せ、スクリーン7に入る。
通路から3つ目の席で、左隣は中年男性が1人。
階段の角の電気設備を覆うカバーが取れてしまい、5cmほどのパーツが転がっている。
前との座席間隔が広く、中の席のチケットを持っている人が入ってくるために立ちあがる必要がなかった。

18時30分、開演。
MCが出演者を招き入れる。
「れーなちゃーん」の歓声をあげたのは、決して僕ではない。
それほどまでに敬虔な信仰をささげてはこなかった、という自覚はある。

田中麗奈さんの姿をお見掛けするのは、1998年10月10日の映画「がんばっていきまっしょい」の公開初日舞台あいさつ以来。
2020年3月7日の大島紬イベントに登場するのを見に行こうとしたが、COVID-19でイベント自体がキャンセルされた。
映画「黄金泥棒」の完成記念披露会の開催情報を得、ぴあで抽選に参加するも、はずれた。
ただ、抽選結果の発表当日にリセールが出ており、ためらいなく買ってしまった。
ITの発展はこのためだけにあったのだ、と確信する。

田中麗奈さんは、赤いドレスを着用。
僕の席は前から12番目の右端のほうなので、顔はかろうじて識別できる、というところか。
周囲の席では、双眼鏡を取り出す人もいる。
購入した双眼鏡の存在を忘れ、必要な時にはいつも自宅に置きっぱなしだ。

「お客さんを呼べる俳優になる」とはっきりとした夢を口にする、田中麗奈さん。
その活躍を27年見続けることのできる幸運は、本当に得難いものである。
広末涼子を中心に置く生活だってあったはずなのだ、実のところそっちも選択しているが。
何1つ用事のない広尾に何度も行き、テンカラットの自社ビル周辺をうろつき、偶然田中麗奈さんに出くわすことを画策してきた。
ビルからアルファードが出てきたとき、「この車の中に田中麗奈さんがいる!」と思い込んだこともあった。

「みなさまはこの映画を始めてみるお客様です。みなさまにはこの映画を広める「義務」があります」と、強い言葉を投げかける田中麗奈さん。
キャリアを重ねてきた事実と自信が、臆さずに発言することにつながっているのだ、と感涙する。
僕は、チケットを買って映画館に来ている。
しかも、何度取られても納得のいかないシステム利用料825円も支払って。
それなのに、田中麗奈さんに「義務」を背負わされるなんて、なんと美しいくびきであろう。

田中麗奈さんが舞台を降りる。
階段を降りる田中麗奈さんに、森崎ウィンが手を携える。
全世界をあげて、田中麗奈さんを守らなければならない。
それでも、ワークショップに参加するのは控えたい。
MCのノリを見て、自分が場違いである思いをし通しだった。

で、映画「黄金泥棒」。
そもそもコメディを映画館で見るのが苦手で、この映画を見ることすらほんの少しためらった。
でも、ウェブサイトでルームウェア姿の田中麗奈さんの写真を見た瞬間、田中麗奈さんから映画館に呼ばれている気になった。
リアルなムビチケを買おうとしていたが、茶碗だけが描かれたデザインを見て悪態をついた。

とにかく、田中麗奈さんが可憐で美しすぎて、話が一切入ってこない。
ずいぶん勘違いしていたのだが、田中麗奈さんのつながりで久留米出身のミュージシャンが出ていると思っていたのは、実際は岩谷健司だった。
「相棒」に詐欺師役で出ていた回の話が、とても好きだ。
また、主人公の夫の若いころを演じる役者の演技がうまくないな、と思っていたら、それが再現ドラマ内の演技であり、逆にこの人うまいんじゃないかと思わされた。

結末、まあオチるところにオチたのかな、と思う。
展開上、内部事情に詳しい人間とつながる必要があるのはわかるけど、それが強引であるような気もして、少しついていけなかった。
その後の顛末も、情緒に欠ける僕には「そうなるものだろうか」と疑問に思った。
それを避けるために実行してきたのに、その結果になったのは、やはり悲しいことではないか。

最後のシーンに、田中麗奈さんファンとして目を引き付けられたことは、否定できない。
僕は、最後のシーンを見るためだけに、間違いなく配信も買うだろう。

観客層は、若い人は少なめで、中年の女性グループが多かった。
パワフルで、人生を楽しんでいるようで、うらやましく思う。
あとは、高齢男女の組。
左隣の男性のような、ひとりで来ている中年男性も多く見かけたが、きっと僕と同じ経緯で来ていて、きっと僕もそう見えているのだろう。
それぞれが募らせている長年の思いを、心の中で称える。
右隣の席が2つ、最後まで埋まらなかった。
テンカラットのお家芸とも言ってしまいたい、石川恋のバーター出演はいいとして、シアターを出てようやく、キャシー中島が出ていた経緯に気づいたことは、少し情けない。

終わったのは21時過ぎ。
ここから自宅に帰らなければならない。
チャットボットに、「くたびれた中年男性がひとりで酒なしで夕食をとることができる、この街の洋食以外の店を教えて、てんや以外で」と尋ねる。
落ちぶれた人間の救いがたい質問にもよどみなく答えてくれる温かい存在に、絶望しそうになる。
そういえば、iコンシェルはどうなったのだろう。

夕食は、最近開店したステーキの店。
食券を買い、トレイを手に取り、オーダーを受けてすぐに焼かれた肉を受け取り、機械から出てくるごはんを茶碗で受け取り、副菜いくつかを自分で皿によそう。
席に着き、肉にソースをつけて食べ、首を傾げ、あとは塩だけで食べる。
肉を焼いたにおいがコートにつかないか、気にする。
22時を過ぎ、アルバイト終わりと思われる学生服の女性が店の奥から出てくる。
これが自分の到達点。

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