曇天の続き

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2023-05-31 Wed.

終来

2023-05-31

今月、Netflixに加入した。

信じられないかもしれないが、この僕が定額料金を払ってサービスに加入した。
時代も変わり、余裕を錯覚し、考え方も変わる。

Netflixに入ったのは目的があって、それは「浅草キッド」を見たかったからだ。
映画を見に行く、と考えたら、大した出費ではないだろう。

で、実際見たけれど、思ったほどではなかった、というのが正直な感想。
おそらく、この周辺のことを見てきた経験値があって、あまり刺激がなかったのだろう。
見ておいてよかった、とは思った。
それと、スクリーンではなくTVサイズを意識した、ネット配信作品のカメラワークみたいなものを少し感じ取れた。

せっかくなので、映画「仁義なき戦い」も初めて見た。
こちらも「そんなものか」という感想なのだが、これは完全に「E.T.」現象である。
見慣れたテーマだと思うのは勘違いで、実際はここから始まっていて、僕はただこの後に続くものを先に見てしまっているだけなのだ。

もう1つ見たかったものがあって、それは「First Love 初恋」である。
我々の世代にズバコン、みたいな話を聞いたので、ぜひ見てみたかった。
これに限らず、配信ドラマを見るということを一切してきておらず、1度はやってみたかった。

一気見せずに、大型連休や週末に1日1本見る、というのを続けたのだが、これは完全に僕のせいなのだが「苦行」という言葉が浮かんだ。
普段、2時間で終わる映画やドラマでもせいぜい30分で1話完結のものばかり見ているので、連続ドラマを見るのがつらい。

それで、感想だが、「僕には全く関係のない話」という程度で終わった。
もちろん、これも、僕が悪い。
全く理解できず、没入も登場人物への共感も何もなかった。
ストーリーの展開としては、「医者という立場を便利に使いやがって」という作り手へのクレームがあった。
夏帆と濱田岳がかわいそうで仕方ない。

子どもとの別離は、胸が苦しくなった。
これは、各役者の演技がうまかったからだと思う。
でも、その後各人はうまくいっているし、この胸の苦しさが自分の寿命を縮めていることにつながっていたなら、無駄な思いをした。

もう1度言ってしまうけど、僕には縁遠いどころか、何1つ重ならない話だった。
そういう世界に住む人には受け入れられるのだろうな、としか思えず、僕はその世界にはいない。
ファンタジーというかおとぎ話のようだし、理想がたくさん詰まった話に感じた。
話として最後に落ち着く場所が見つかったのはよかったし、それぞれ満足そうだから、それでいいのだろう。
要するに、自分の人生の惨めさを改めて思い知らされる結果となった。

加入してしたいことは一通りやったので、1か月で解約した。
「サンクチュアリ -聖域-」を見るほどの気力は残っていなかった。
また来年の大型連休にでも、「Jimmy」を見るために入ることがあるかもしれない。

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2023-05-02 Tue.

酔月

2023-05-02

先週の昼間、東急歌舞伎町タワーへの散歩を終えた後、腰への違和感を覚えた。
久しぶりのぎっくり腰の予兆か、ととらえ、慎重に体を動かして用を済ませ、帰宅の途に就く。
悪寒、吐き気がして、電車内で立っているのもつらい。
このような時でも、タクシー以外楽に帰れる手段がないのが、僕のような都市労働者である。
あるいは、車で迎えに来てもらえばいいけれど、そんなことを頼める人もいない。
バスで空港まで行って、空港から自宅近くまで行くバスに乗ろうか、とまで考えつつ、ひそかに耐えて速達列車と各駅停車を乗り継ぎながら家に帰った。

横になると、発熱はないもののあちこちの関節が痛い。
次の日はもともと休暇取得を計画しており、横須賀にでも遠出しようかと考えていたが、それもあきらめなければならない。
食欲もなく、翌日も朝から起き上がらずにじっとしていた。
気付いたら寝ていたようで、13時ごろ目が覚める。
便意があり、トイレに行くと、体内から水が出てくる。
それ以来ずっと、水下痢が続く。
夕方になると発熱。
絶食を決め、深夜はトイレと寝室を十数回往復する。
下痢の症状が治まったのは、2日後。

こんな調子で不安があったのだが、症状がほぼなくなったのを確認したうえで、ウェブサイトで、きっぷを手配する。
えきねっとを使い始めた時、まさに「マルス端末が自宅にやって来た!」と驚いたものだった。
それゆえ、えきねっとには好意的なスタンスでいるつもりだが、リニューアルを経てもやはり、えきねっとのユーザインタフェースは使いづらい。
それでも、体調不良を気にしながら、前日の夜に自宅できっぷを確保できるのだから、感謝するべきなのだろう。
連休の谷間だし、昨今の事情がまだ続いていると錯覚し、安易に考えていたのだが、列車はほぼ満席である。
隣が埋まっている窓側の一席を確保し、多少の不安を覚える。

当日は、文句のつけようがない青空。
小遊三の話が聞きたいのに、「ザ・ラジオショー」にはヨネスケが「乱入」させられ、何らかの不適切発言まで吐き出す羽目に。

新宿駅。
千葉から来た特急列車から何人か降り、長い列をなして乗客が乗り込む。
短い停車時間で乗り切れないかも、という不安に襲われ、慣れない状況が戻ってきたことに戸惑う。
他の観光客も、外国人を含めて、乗り慣れていない様子。
列を割り込もうとする中年男性を制し、列車内へと入る。
車内で立ち止まる乗客がおり、列が進まないのに少しいらだつ。
窓側の席にたどり着いたら、まだ通路側の隣席は埋まっていない。
途中駅から乗ってくるのかと思っていたら、先ほどの中年男性が隣に来る。
男が甲府までの乗車券を持っていることを確認し、申し分のない青空を仰ぎ、嘆息。

列車は、新宿駅を出発。
全席指定の座席は完売しており、座席未指定券を持っている人はデッキにいてくれ、とのこと。
途中駅のプラットホームにいる通勤客はそれほど多くない。
西国分寺駅の下りを待つ客は多く、南武線も多くの人たちが乗っている。
豊田駅の先には、すでにグリーン車が設けられた中央線列車が配置されていた。
オレンジ色の帯をした現物を目の当たりにすると、それなりの感動がある。
八王子駅で降りる登山装備の客が降りていき、高尾山方面にでも向かうのだろうと推察。
タイムフリーで聞いている「めぐみのラジオ」では、いわぶ見梨が学生時代、おしゃれのために折り畳み傘を持ち歩いていたことを披露している。
高尾駅を超えたところで、350ml缶を開ける。
500ml缶でもよかったし、何なら350ml缶を2本買っておいてもよかったのだが、体調もあるし、隣にどんな人が座るかもわからなかったので、これでよかった。

進行方向左の窓側に席を取っており、塩山駅手前で開ける盆地の風景に見とれる。
遠くには、おそらく南アルプスであろう雪嶺が望まれる。

甲府駅ですがすがしい気分になり、ふと鉄道乗りつぶし状況に思いをはせる。
先日の、東急新横浜線、相鉄新横浜線に乗ったことで、関東地方一都六県は乗りつぶしたことにしているのだが、他に無意識のうちに乗りつぶしている道府県があったりするものだろうか。
福岡県内は、あれほどにも激しい廃止路線があったにもかかわらず、まだ全部は乗っていない。
それどころか、北九州市内に限っても、実は筑豊電気鉄道線に一切乗ったことがなく(後から繰り入れられた部分は乗っている)、全乗は果たせていない。
もちろん、筑豊電気鉄道の車両には日常的に乗っていた、古い小倉の人間なので。

そう考えると、実は大分県の鉄道はすべて乗っているのではないか、と思い当たる。
念のため調べてみると、別府ラクテンチにケーブルカーがあることがわかった。
鶴見岳のロープウェイは乗ったことがあるものの、さすがにケーブルカーはカバーしていない。
あるいは、佐賀県もいいところまで行っているのでは、と記憶をたどるが、松浦鉄道の有田ー伊万里間と、唐津線の唐津-西唐津をたぶん取りこぼしている。
いや、佐世保線も怪しいし、そうこうしているうちに西九州新幹線もできてしまった。

列車は、小淵沢駅に到着。
次の列車まで時間があり、途中下車して周辺を歩く。
駅舎は高台にあり、市街地は下に広がっているようだ。
馬の放牧が盛ん、とうたうモニュメントがあり、さっそく売店に戻るが、馬肉のジャーキーなどはなかった。

次の特急列車を待って出発する小海線の列車には、すでに多くの乗客がいる。
単独行の僕は、ロングシートの隙間に席を確保する。
列車は駅を出ると右へと進路を変え、高さを稼いでいく。
林の中に進む線路は登坂を重ね、列車は一気に標高を上げる。

清里駅に到着。
一度は降りてみて、駅前の様子などを探ってみたいのだが、その機会は僕の人生には訪れ難いであろう。
世俗は都会でみっともないことを起こしてもかまわないのだが、それが無関係な土地を巻き込むようなことは、もうあってほしくないものだと願う。

列車はJR鉄道最高地点を通過する。
自動車でここを訪れたことはあったのだが、鉄道では初めてである。
1999年10月3日に青函トンネルを通過して以来、これでようやく最高地点と最低地点を訪れたことになる、としておく。
野辺山駅を通過すると、列車はすでに下りに差し掛かっている。
これから千曲川とともにだらだらと山を下っていくのだろう。
多摩川や利根川を渡河すると何とも言えない緊張感に包まれ身を引き締める思いがするものだが、中央分水界の反対側に来ると、無事の帰還への祈念が止まらなくなる。
ひとまずこれで、山梨県内の鉄道は完乗した、ということになったと思う。

信濃川上駅で空いた席に移動し、進行方向右側の景色を楽しむ。
佐久広瀬駅は後ろに丘と数件の民家を抱え、目の前には千曲川の川原が広がり、ぜひとも降りてみたい駅ではあるが、ここで降りてしまうと大変なことになるので、先を進む。

この辺りは「海」の付く駅名が多いが、それはなぜだろうか、と疑問に思っていると、左後ろに中年男性の2人組が座っていて、一方の男が小海線の歴史について語っている。
小諸から小海まで先行開通させたのは佐久鉄道であり、私鉄であることから駅間が短く、各駅は留置線を抱えており、それは貨車を止めておくスペースであり、鉄道は物資を運ぶ役割も担っていた。
などという話を一方の男はしているのだが、相手の男は口を挟まない。
僕はそういう話はいくらでも聞いていられるのだが、それでも僕は今後、中年男性と旅をすることがあるのだろうか、と疑問に思う。
最近、中年男性と仕事の話で面と向かうことすら、もう嫌になっているのだ。
それに比べると、女性同士はいつまでも仲がよさそうだ。
先ほども高齢者のハイカー集団がいたのだが、女性同士は話がはずんでいるものの、男性は口も開かず不機嫌に立ったままだった。

馬流駅、という興味深い駅名を確認した後、小淵沢駅で買ったカップ酒「櫻守」を開ける。
旅先の列車内で、許される環境にあるのなら、飲むのは常温のカップ酒が最適である、と思うような年齢に達してしまった。
高原から、川を抱える扇状地へと車窓が変わり、遠く見える山の陰に、川がどのような景色を広げているのかと、想像力をかき立てられる。

先ほどの鉄道ファンは、中込駅あたりで降りた模様だ。
結局のところ、なぜ「海」の付く地名があるのかはわからないまま。
最初は山岳列車の様相があった小海線だが、この辺りでは日常使いの列車に雰囲気を変え、多少混んできた。
混みあう車内だからやむを得ないのだが、ガタイの大きい男が断りを入れ、正面の席に座ってきて、互いの膝が当たらぬよう、窮屈に身をすくめる。
佐久平駅で多くの人たちが下りる。
ここに集積があるのか、新幹線で別の街へと行くのか。
目の前の男はその先の駅で降りたが、人間どのような功徳を積めば、頭にタオルを巻いて外出するようになるのか、疑問である。

浅間山を望み、小諸駅に到着。
大糸線に乗るのは一苦労がいるものだが、小海線ではあれば比較的苦労なく楽しめるとわかった。
過去の風格がただよう信越本線を見るのは、いつもながらさみしい思いがする。

駅前を歩くと、一昔前の飲み屋街が残っている。
まだ昼間なので、様子はうかがえない。
北国街道を渡り、少し歩いたところにラーメン屋があり、そこで昼食。
ワンタンメンと唐揚げで、ご陽気に。
駅の反対側に回り、懐古園という庭園を散策。
鉄道は、庭園のあった場所を横切るように敷設されたとのこと。
島崎藤村記念館にて、藤村がイギリスで生活を送っていたことを初めて知る。
知っていることといくつか食い違うな、と思いながら展示品を見ていたのだが、後でわかったことに、僕は島崎藤村と志賀直哉のことを混同してとらえていたようだ。

少し離れたところにある、小山敬三美術館へと向かう。
文化勲章を受章した洋画家小山敬三のことを、情けないことに全く知らない。
「10分ほどの紹介ビデオがありますので」との案内を受け、ビデオを見る。
聞いたことのある声だな、と思っていると、ビデオは2005年に放送された「おもいッきりテレビ」の「今日は何の日」だった。
高橋佳代子の説明によると、この日は18年前に小山敬三が亡くなった日なのだとか。
窪田等のナレーションで、小山敬三の生涯が紹介される。
「おもいッきりテレビ」でこんなに重厚なコーナーをやっていたとは、まじめにふざけていたのだなと感慨を深める。
小山敬三の絵も見たが、祖父宅にあり、今は実家に掲げてある油彩の「香春岳」の絵にタッチが似ている。
建物を出て、眼下に千曲川の流れを望む。
入り口の向かいにある寅さん像は、結局何なのだろう。

道を戻り、懐古神社の社殿で黙礼し、天守台へと昇る。
山本勘助が使った、と伝わる鏡石で乱れた髪を整え、動物園を見学する。
城の跡に動物園、という久しぶりの感覚、その下には遊園地が広がっている。
運営を続けるのは大変だろう。
また線路の反対側に回り、大手門を見るも、櫓内は15時で閉まっていて見学できなかった。
結局、小諸城がどのような城で、誰がいたのかはよくわからなかった。
徴古館というところで展示物まで見たのに、このざまだからどうしようもない。
ただ、春日局と家光公の一対の大きな木像は印象的で、これを臣下に見せてお福を顕彰していたというのだから、たまったものではなかっただろう。

旅の決まりごとの1つに、カフェで休憩する、というのがある。
街にいくつかのカフェを見つけたが、どれも入りづらく、何とか1つ入ってみたものの、暗い店内に他の客はおらず、中年男性の店員と対峙することになった。
ブレンドをいただくも、特に感想はない。
前日の珈琲館で、ブルーマウンテン850円をいただいた後だったからかもしれない。
途中で客が1人入ってきて、200gずつ2種類のコーヒー豆を買っていった。
前日、インポートフーズのショップでセールをやっていて、ブルーマウンテンが2割引きで200g 1,300円ほどだったのだが、この店の豆の値段を聞いて、思わず何かリアクションをしそうになった。
流通のゆがみというか、経済の創出というか。
具体的な言及は避けるが、アニメーションの舞台に取りざたされることは、清里の現状を想起してしまい、自分の思考回路は考え物である。

小諸駅からは、しなの鉄道線。
自動券売機で、Visaタッチ決済で乗車券を購入。
2両の電車が、ここではむしろ落ち着く。
浅間山の雄大さに気を失い、気付けば横に北陸新幹線の線路が並走している。
終点、軽井沢駅で下車。
4年前も春の大型連休中の来訪で、その人ごみに本当に場違いな自分を感じたので、今回はあまりうろうろしない。
初めての新幹線eチケットで改札入場。
この列車も予約時は席がほとんど埋まっていて、E席を確保しておいたのだが、実際は隣の席に客が来ることはなかった。
列車内も空席が目立ち、全体的に7割程度しか埋まっていない。
何か見間違えたのか、取り方が悪かったのか。
とにかく、軽井沢-高崎の距離でこの特急料金が許せず、安中榛名の廃駅に心が傾く。

関東平野を堪能し、たまに使いたくなる上野駅で下車。
平日の夕方だが、列車の混雑はそれほどでもない。
帰宅後、行程を振り返ろうと時刻表を開いたが、コンタクトレンズをしたままではもう時刻表の文字は読めない。

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