曇天の続き

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2023-04-21 Fri.

単順

2023-04-21

新宿フラッグスへ行く。

混んでいる新宿で、東南口は比較的人が少なく、「新宿での待ち合わせは、東南口」というのが、当時の約束だった。
人が少ないということはつまり「東南口の認知度が低い」ということでもあり、まずは東南口がどこにあるかの説明から始めることが多かった。

「東南口は、フラッグスの前にある改札だ」
「フラッグス、って何?」
「いや、新宿にタワーレコードあるだろ、タワレコが入っているビルがフラッグス」
「あのビル、フラッグスって言うの。名前で呼んでいる人、初めて見た。ところで「フラッグス」じゃなくて「フラッグズ」じゃないの?」
と英文科の学生に指摘されかねない会話を何度か繰り返した。

フラッグスが開業したのは、1998年。
2023年の今では、ドロミの姿も見えず、モザイク通りも通れなくなった。

開業以来、フラッグスにはよくお世話になった。
主に服を買い、まれにスポーツ用品も買った。
エスカレーターで登山をし、4フロアあるタワーレコードで時間をつぶし、ときどきCDを買った。
2022年の改装でGAPとユニクロとGUのビル、という印象になり、それ以外の隙間のテナントには相変わらず行っている。

奥のエレベータを使って、10階で降りる。
国内に、タワーレコードがあと何店舗あるのだろう。
ラフォーレ原宿・小倉にできた店舗が僕の初めてのタワーレコードで、よく冷やかしては時間をつぶした。
初めて渋谷に行ったときはまずタワーレコードに行ったが、いつしか利便性の良いHMVを選ぶようになった。
吉祥寺のタワーレコードにも行きつつも懲りずにWAVEで一息つき、今住んでいる街にも店舗がありよく行った。
小倉からタワーレコードが失われ、都市の格としてショックを受けたのだが、この時世となっては十分に受け入れられる。
30年前から見てきた陳列のせいか、なんとなく落ち着くが、アイテムや広告展開を見る体力も、もうない。
雑誌売り場には、鮎川誠追悼号が並び、ため息をつく。

9階に降りる。
アイドル・アーティストの売り場が場所を占拠し、アイドル・アーティストの商品を求めそうな客がパラパラといる。
店の逆サイドではイベントをやっているようで、20名ほどのファンが並んでいる。
平日の昼にイベントをやって集客が見込める、というのが、もう理解できない。

店内を2周くらいして、ようやく試聴機材を見つけた。
DISC1には、国岡真由美さんのコメントが入っている、と書いてある。
COVID-19以来初めて、試聴のヘッドフォンを装着する。
今回発売のアルバムはシングルがリリース順に並んでおり、変遷をたどるにはいいのではないか、みたいなコメントをしていた。
店を離れる途中でパネル展示に気付き、少し見る。
これでいて、CDは通販で入手したのだから、それはリアル店舗が消えていくはずだ。
それでも、実物のCDを手に入れている点は、まだまだ世の中についていけないことの表れであろう。
なんせ僕は、「ファッション通信」「シネマ通信」そして「TOWER COUNTDOWN」世代なのだから。

夕方、山手線に乗る。
東京で生活を送っているつもりだが、久しぶりに乗るこの時間の山手線西側を体感し、「同じ東京でも、穏やかな東京で暮らしているものだ」と雑然とした車内で思う。

渋谷駅で降車。
工事中のプラットフォームで、電車を待つ列を避けながら歩いていると、次の電車が滑り込んでくる。
たどり着くのに時間がかかった下り階段をのぞき込むと、階段を上る人たちが滞留している。
流れに任せて左に曲がり改札を出ると、「ああこんなにも人がいるのか」と思わされる。
いくつあるかも数えたくなくなるほどのビジョンから人の声がするけれど、誰も聞いていない。
広場を抜けて、交差点まで来ると、青信号の時間を示すサインはあと1つだけ点灯している。
向かいの通りの入り口の群衆を見ると、その数にうんざりするが、やむをえない。
1つの点灯でも迷わず突き進み、意外とすんなりすり抜けた。

週末の宵の口、こんな数の人が帰宅せずに街に繰り出しているのか。
「もう、夜に楽しいことはない」と悟っている、というより自分のつまらなさを受け入れている身には、刺激が強すぎる。
誤解を恐れずに言うと、「現実にいるのを初めて見た」と思うような顔つきの若者を何人も見た。
普段住む世界とはかけ離れている思いがした。

西武百貨店やロフトの建物を見ると、「かろうじて安心する」というより、「あなたたちはまだここにいていいんですか」ということを言いたくなる。
僕が初めてこの街を訪れた時に存在した店どもは、もうすべて消え去ったのではないだろうか。
勘で曲がった角が間違いなくスペイン坂に通じていて、少しホッとする。
ピエトロだけが心の支えだった時代もあったが、今の坂には一蘭がある。
それほど人の往来がない坂を上り切って、建て替わって初めてのパルコを間近に目にする。
振り返ると、シネマライズ。
この前をしょっちゅうウロウロしていたし、地下に続く階段で上映を待つことも何度かあった。
入り口には、「ICE 30th Anniversary Live In Shibuya」の張り紙。
すでに開場時刻を過ぎているからか、Shibuya WWWの前はそれほど人はおらず、僕はそこで写真を撮った。

今回は、ここで終わり。
2019年のライブに行って、自分の中でものすごい充足感があり、それをもとにしばらくやっていこう、と決めたのもあって、今回は見送った。
チケットがすぐに完売しており、他の人に譲れたのならそれでよかった。

パルコを抜け、何の行列かわからない宇田川町の人だかりを見ながら坂を下り、ハンズと改まった看板の下を通り、「あれ、ドン・キホーテってここにあったっけ」と思いながらパチンコ店だった建物の裏を通る。
自分も含めて何もかもが変わっていて、道だけが変わっていない。

東口に回ってから銀座線に乗ろうと試みたが、とにかく遠い。
すんなり階段を昇ればたどりついた昔の記憶も、大掛かりな工事を目にすると実に頼りない。
僕が東京で生活を始めたときは、井の頭線におびただしい数の有人改札が並んでいた時代である。
マークシティができたとき「なんとも便利になったものだ」と感じ、銀座線への通路を得意げに抜けたものだが、玉川改札が閉鎖され、井の頭線ユーザーに手厳しい導線変更が課せられ、月並みながらいつになったら渋谷駅の工事は完成するのだろう、と思う。
「渋谷は通過するに限る」というのが、時代遅れには適切なのかもしれない。

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