残雪
5時半起床、6時出発。
相変わらず、ばかばかしいほどに大げさな動き出しだ。
ラッシュにも遭遇しない時間帯だが、それでも席が埋まるほどの乗客がいる。
たまごサンドと500ml缶を買い、敦賀行き北陸新幹線、かがやきに乗車。
小倉への帰省を予定していたのだが、事情があって取りやめた。
2021年にも帰省を中止したが、その時は岡山旅行を兼ねていて、ツアーの取り消しで全額返金された。
今回は、航空チケットのキャンセルだけとなり、航空会社との粘り強い交渉をした。
一方で、休みは休みである。
家にいるのもどうかと思うし、かといって休暇を取りやめるほど、心を売ってはいない。
普段から「次の旅行計画」を考えていたのが役に立ち、2日前の夜に旅程を組み、出発前日に宿泊地を確保した。
それで、福井に行くことになった。
それで、長野駅に到着。
長野駅に来たのは、30年ぶり。
小倉から北志賀高原へ11時間かけて移動した時以来。
その時は、名古屋から特急しなので長野まで来た。
寝覚の床とか三大車窓とかのたまうくらいの才覚はあった気がするし、あの時は長野行新幹線はおろか、名古屋の次の停車駅が東京だったことを強く記憶している。
長野駅はすっかり変わっている、というより、何も覚えていない。
コンビニエンスストアでトマトジュースと、マカデミアナッツチョコレートを購入。
今から1時間45分、バスに乗る。
事前にウェブサイトでチケットを予約しており、バスの運転手に画面を見せて乗車する。
ICE「THIS IS ICE」を聴く。
偶然なのか「17」がかかり、激しく深く落ち込む。
どう切り取っても自分の人生に何もいいことはなかったし、戻りたい場所も時間もない。
確かにそれがなければ今はないけれど、それをまるでいとおしくは思えない。
ひどい結果ばかりだけど、それでもマシな方なのだろう。
radikoで「PAO~N」を聴いていると、沢田さんは流行り病でお休み。
山奥に来たらしく、途中で一時的に電波がなくなった。
扇沢に到着。
QRコードを読み取らせ、発券機からきっぷを受け取る。
時刻表では子供のころからよく見ていたが、ルートに臨むのは初めての経験である。
まずは、関電トンネル電気バス。
整然とした乗り場は、過去のトロリーバスを思わせる。
パンタグラフで充電した6台のバスは列をなし大町トンネルを走行、破砕帯で落涙し、対向のバス群とトンネル内ですれ違い、黒部ダムへ到着。
展望台の方へと階段を昇るが、普段の通勤で毎日250段の階段を上っているはずなのに、途中で息が切れ、頭が痛くなる。
「ハサイダー」なる炭酸飲料を購入し、苦みのある味を堪能し、瓶を戻す。
黒部ダムを見下ろす。
観光放水をやっていて、下の方には虹もかかっている。
実物の迫力を実感する一方で、これから、あの下まで階段を降りるのかと思うと、気絶し重力で直接降りてしまいそうである。
夏休みにもかかわらず、小学生の集団が引率されている。
この時間にいるということは、昨夜は立山に宿泊したのだろうか。
結局、階段で降りられるところまで降りる。
峡谷となるダムの下流を眺めると、左右に山が迫っているのがわかる。
ここまでかなり簡単に来たから実感がないが、黒部ダム建設にはどれほどの苦労があったのか。
というのがわかるビデオ放映もやっていて、15分間しっかり見てしまう。
大プロジェクトの話を聞くのは好きだが、実際に携わりかけたことを思うと、安堵する。
机上の計算だけしていたい、でも、それで満足いかない自分もいるかもしれない。
両端がウィング状になっているアーチダムの堤頂歩道を歩く。
大きいし、高いし、怖い。
堤頂の反対側まで歩き、黒部湖駅。
ここから、全線がトンネル内にあるケーブルカーに乗る。
黒部平駅。
眼下に小さく見える黒部湖と、後ろに迫る北アルプス、背後にはこれから抜けようとしている立山連峰。
人の流れにはじかれながら駅の乗り換えに手間取った朝が、遠く感じる。
ここからロープウェイに乗る。
TVでも何度か見てきたが、実際に乗ると、ワンスパンの迫力がたまらない。
山肌に下からは白く見えていたものが、上るにつれて近づいてきて、それが残雪であることがわかる。
そして、ここでは書けないけれど、同乗する傍若無人な観光客の集団。
「あれ雪なの! あの上に降りてみたい!」という、僕には到底思いつかない、思いついたとしても口にする労力を惜しむような感想が飛び交う。
さっきロープウェイに乗るときも、順番抜かされた。
大観峰駅に到着。
また展望台に上るが、頭が激しく痛い。
にしても景色が普段見ている風景と違いすぎて、錯乱してくる。
観光客集団が記念写真を撮るのに時間をかけている様子なので、すばやく次の行程へ。
ここからは、トロリーバスで立山を抜ける。
係員から乗車記念のカードをもらう。
今期でトロリーバスの運行は終了し、来年からは電気バスに置き換わる予定である、という風なことが書いてあるらしいが、コンタクトレンズだと細かい文字が見えない。
トロリーバスに乗ったことがあったかは記憶にないが、きっとこれがトロリーバスに乗る最後になるのだろう。
分岐を通過する際、集電装置が大きな音を立てることを初めて知った。
これでまた1つ、未乗区間をつぶすことになった。
国内最高地点の駅である、室堂に到着。
この辺りになるともう疲れてしまい、周辺を見ることもなく、バスの行列に並ぶ。
自分の1組前で乗車が打ち切られ、次の臨時バスに乗ることになった。
2組前の客が乗車を断られて戻ってきた。
ソフトクリームを食べ終わらないとバスには乗せられない、ということらしい。
バスの中では、頭も痛いし、疲れていたのもあったので、眠る。
車内でものすごく観光案内していた気がするし、よくニュース映像で見る「雪の大壁」というのもこの辺だろうが、そんなの関係なく眠る。
車窓には、ホテルだかロッジだか避難小屋だかが見える。
ここを宿とする、となったら、僕はすべてを捨て去るだろう。
美女平に到着。
流れるプールに身を任せるごとく、ケーブルカーに乗る。
これで、国内22あるケーブルカーのうち、11路線乗ったことになった。
立山に到着。
さすがに疲れた。
立山カルデラ砂防博物館がだーたーだったので、見る。
常願寺川の砂防について紹介するもので、あの18段スイッチバックについても解説されていた。
幸田文は72歳で突如「崩れ」に取りつかれたそうで、その後各地の崩れを見て回った、との展示もあった。
富山地方鉄道に乗る。
車両は混んでいて、先頭部分の手すりに軽く座る。
立山駅を出ると、次の駅までは距離があり、林の中を進む。
「本当に都会に戻れるのか」という不安はあったが、川に沿って高度を下げ、電車は岩峅寺駅に到着。
ここで隣の乗客が、「富山駅まで行くなら、ここで乗り換えたら座れるよ」と言う。
「時間はどうなんですか」と尋ねると、そんなに変わらない、とのこと。
男性に感謝を告げ、提案通り不二越・上滝線に乗り換える。
止まっていた列車は2両編成で、後ろの車両に乗ったが、確かに座れる。
ところで、言ってしまっていいのか悩むが、車両が古い。
これが富山地鉄の売りなのだろうけれど、いくらなんでも古すぎやしないだろうか、こういうの好きな人ばかりじゃない。
南富山駅で路面電車を確認し、稲荷町駅に到着。
立山からきた列車を待ち、そちらが先に行き、電鉄富山駅に到着。
売店で、地鉄のマスキングテープを買った。
ところで、関東から北陸へ、例えば富山を目指すとなると、鉄道だといくつかのルートが考えられるだろう。
まずは、碓氷峠を越え、長野から直江津に出るルート。
こちらは、昔からあるルートだ。
次に、上越線で長岡まで出て、柏崎を経由するルート。
これは、ある時から上越新幹線に置き換わった。
その発展形で、越後湯沢からほくほく線を使って、直江津に出るルートができた。
現在の主流は、北陸新幹線で長野経由を進むルートである。
これにより、残念ながら直江津はかすめる形になってしまった。
あるいは、松本から大糸線を選び、糸魚川へと抜けるルートもある。
こちらは以前乗ったが、いつまで乗れるものかわからない。
上記のルートは、いずれも必ず親不知を通ることになるが、さらには、名古屋まで出て、岐阜から高山本線で富山に出る、というルートもありうるかもしれない。
一度はやってみたい。
で、今回は、富山を目指すために、立山黒部アルペンルートを選んでみた。
自宅から数えると、今日の宿泊地までに14個の乗り物に乗ることになる、本当に物好きだと思う。
いずれは、「キャニオンルート」も開通し、宇奈月温泉経由で到達することもできるだろう。
「旅行とは、移動と展望である」というのが、僕の会得した境地であるが、いつまでこんなことができるのだろう。
さて、最初に言ったとおり、今回の旅行は福井に行くのであった。
岩峅寺駅で時間を気にしたのは、北陸新幹線の時刻があったからだ。
まずは、10年ぶりに訪れた富山駅なので、富山市内線と富山港線の接続部を確認。
新幹線のチケットを手に入れる窓口や券売機に行列ができていたので、えきねっとでeチケット自由席を購入。
改札を抜け、乗り場に向かうと、つるぎが到着。
自由席が後ろ2両しかないとのことで、大移動。
そんなに指定席が必要だろうか。
速達タイプのつるぎなので、新高岡、金沢と停車し、福井までは1時間足らず。
10年前は、在来線で金沢まで行ったものの引き返したわけだから、実にあっけないし、利便性を痛感する。
福井のホテルにチェックインしたのは、18時30分ごろ。
朝6時に出ているのだから、福井まで12時間かかったことになる。
改めて思うが、実にばかばかしい。
にしても、外は息苦しいほどに暑い。
恐竜にあいさつし、夜は名店のソースカツ丼。
一緒に頼んだビールの中ジョッキが、いつも都心で見る大きさよりも心強く感じる。
ソースカツ丼もおいしかった。
TVでは「小学5年より賢いの」みたいな番組がやっていて、佐藤隆太が司会であることに驚く。
回答席のアイドルのことを知らないのは、自分の不勉強。
他番組のフォーマットに触れないのか、という不安に震えたが、そもそもこの番組が外国フォーマットであるようで、安堵。
コンビニエンスストアでチューハイを2本購入。
ホテルに戻って、大浴場で入浴。
部屋で、チューハイを飲みながら、「ドキュメント72時間」千葉市の団地の回を視聴。
男子体操特番を見ながら、就寝。