返脳
松岡美術館に行った。
恵比寿駅で下車。
ここから歩くことにする。
この辺りに来るのは、記憶している限りだと、20年以上ぶり。
お世話になった人のお手伝いで、街の調査のために来たのを、首都高速2号線の高架下を見て思い出した。
思っている程度に飲食店が並び、思っている以上に住宅があり、なぜこの辺に関係のない生活を送っているものか、と不安になる。
パーソナルジムのチラシを配る男性に会釈する。
大きな屋敷を横目にしつつ、道に迷い、目的地に到着。
初めての来訪。
松岡冷蔵創業者の胸像に手を合わせ、「モネ、ルノワール 印象派の光」を鑑賞。
長く生きるとわかることもあるもので、僕はどうも印象派から新印象派にかけての絵画、特に点描画や分割主義に興味があるようだ。
特に、ジョルジュ・スーラの絵が好きで、いつかクレラー=ミュラー美術館に行ってみたい。
小学生のころ点描画を描きたかったが、水彩絵の具でその表現はとても無理だった。
もっとも、後からよく考えてみたら、絵を描きたいなんて思っていなかった。
点描画にひかれるのは、僕の色覚異常にも関係しているのではないか、と思う。
実際、アンリ・マティスは色覚異常だった、という話もある。
今回は、スーラの作品はなかったのだが、ルノワールやウジェーヌ・ブーダンの絵に興味を覚えた。
アルマン・ギヨマンは、50歳で宝くじを当て、その後の人生は制作活動に没頭することができたそうだ。
ヘンリー・ムーアの「母と子」があり、「抽象彫刻はたまらないな」との感想を得た。
筆のタッチや単純なオブジェクトで表現するところにひかれるのは、プログラミングの仕事をしすぎているからかもしれない。
そして、この期に及んでも、共通点を見つけ抽象化しようとしている。
帰るころには、入場券売り場に長い列ができていた。
自分の人生ならもっともなことだが、この付近に用事があるようなことも、これまで一切なかった。
とても僕のようなものが店に入って、昼食をとるような雰囲気にはない。
白金に飾られたドン・キホーテが異彩を放っている。
マルエツ・プチばかりを見て、白金台駅の深い階段を下り、早々に立ち去る。
帰宅してから、地図アプリを見返すと、白金界隈に「脳洗浄」なるものをしてくれる店があった。
商売として本当に存在する概念なのか、とまた知識を増やす。
父親に教えてあげたい。