福家
有楽町駅で降りる。
銀座口の方に向かい、ルミネストリートを抜ける。
この辺に甘栗屋があったものだが、といつも思うのだが、いつの記憶なのかはわからない。
「8階にある」という情報だけで、マリオンの方まで歩いてきたのだが、どうやら間違っていたようだ。
調べ直し、ビックカメラ有楽町店がある、読売会館へと向かう。
ここに来るまでにポプラに寄りたかったのだが、導線にあった生活彩家はローソンに変わってしまった。
時間が少しあるので、ビックカメラの店内を冷やかす。
「持っているタブレットが使えなくなったらどうしよう」という不安がいつもあり、タブレット売り場を探索。
店員に丁重なお断りを告げ、候補の値段をチェックする。
今だったら、OPPOにするだろう。
ふと見ると、aiwaがタブレットがある。
石橋凌が宣伝している。
6階までエスカレータ、そこから階段を上る。
7階のカフェは、今後使い勝手がありそうな立地だ。
8階に上がると、人が多い印象。
受付で時間を告げ、両隣に人がいない中央席を選び、現金で支払っている途中で、開場。
水曜は、料金が1,300円だそうだ。
それもあるし、1週目ということもあるから、人が多いのだろう。
角川シネマ有楽町に来たのは、前身を含めて、たぶん初めてだと思う。
3割程度埋まった席で、予告編が始まる。
ライトな予告編が、ほどよい。
「シーナ&ロケッツ 鮎川誠~ロックと家族の絆~」。
映画館で上映されるのは知っていたが、TV版を見ていたので、「もういいか」と考えていた。
何せ、後ろにTBSがいる以上、のこのこと見に行くわけにはいかない。
そんな時、「PAO~N」のコーナーに、監督の寺井さんが出ていたのを聞いて、TV版にはない未公開映像と甲本ヒロトのコメントがあること、そして、音楽をぜひ映画館で聞いてください、との言葉に考えが変わった。
RKBの人がKBCのラジオに、しかもその日東京で仕事をしていて、台風で飛行機が飛ぶかどうかわからないところを帰福して出演し、そしてKBCシネマで上映するのだ。
自分の信条など、どぶ川に捨ててしまえばいい。
鮎川誠とシーナの生い立ちから追っていくのだが、先日視聴した武田鉄矢と回る久留米の番組、鮎川誠が単独で久留米を訪れる番組、そしてドラマ「You May Dream」で描かれた情報が重なる。
シーナに歌うよう詰め寄ったボーカルの女性は、その後どうなったのだろう。
開始当初からかなり苦しい思いがしたのだが、甲本ヒロトが下北沢で見た鮎川誠とシーナの姿を語るシーンで、涙がこぼれた。
そこからは、鼻水が止まらない。
映画館を出て、呆然としたまま街を歩き、餃子屋で昼食。
喪失感の正体にたどり着いた気がする。
ことあるごとに繰り返しているように、僕の鮎川誠ファーストタッチはポプラのCMである。
同年代であるバイきんぐ小峠氏が言っていたのと同じように。
シャープなフォルム、それに似つかわしくないように見える穏やかなコンビニCM、バックにかかる歌の印象深い歌詞。
道端のポプラを目にするたびに、「やっぱ九州のコンビニはポプラやね」と言って入店し、のちに広島に本社があることに顰蹙を覚えたものだ。
上京して、青山通りにポプラを発見し、その前を通るたびに「やっぱ九州のコンビニは…」と何度も唱えた。
方言が抜けきれず、人前で話すことを苦にしていた自分にとって、全国放送のTVでも筑後弁で語り続ける鮎川誠の姿は不思議で仕方なかった。
「いいとも」に出たときに「DOS/Vブルース」の上梓を披露したのを見て、読まずして傑作だと確信した。
時間が経つにつれ、自分が知っていた曲のいくつかが実はシーナ&ロケッツのものだと知り、意識せず見ていたローカルCMの数々を思い出し、黒霧島を飲むようになり、ニューイヤーズロックの番宣を毎年楽しみにするようになった。
シーナが若松の人であることを知ったのも、かなり後だった。
飾らずに、曲げずに、自分のしたいことを突き通す。
ポプラのCMから時間が経過して、その偉大さを少しずつ思い知らされるのだから、重々しい。
喪失感の正体。
それは、誇り高き地元の先輩を失ったことによる虚脱感だ。
「うちの地元には、こんなすごい人がおるんやぞ。お前んとこに、こんな人おるか?」
そんなことを意識していたのだ。
小松政夫が亡くなった時も同じことを思ったけど、芯のある人たちと地元が一緒であることに、力をもらっていた。
規模は小さいながらも、自分が苦境に立たされた時や、絶望的状況に追い込まれた時に、「まあ、何かできるやろ」と思えたのも、そのあたりからの救いを勝手に設定していたように感じる。
ありもしないつながりを仮想して、それにしがみついて、ない線を手繰り寄せるせるように暮らしてきた。
それで、どこか安心していたところがあった。
でも、鮎川誠はもういない。
今後のことを考えると、怖い。
もつのか、自分。
へしゃげても誰も相手にしてくれない。
十分にたくさんのものをいただいた。
これからは好きなことを見つけて、それを1つでも多くやろう。
そして、それ以外のことで、自分のことで手いっぱいにならないようにしよう。
周りに感謝して、好きなようにしてもらおう。
ハイボールと紹興酒で、かなり仕上がってしまった。
少し歩いて、東京ミッドタウン八重洲を探索。
店の並びを眺めていて、幸せを感じる。
思い返せば自分も運がよくて、いくつかのめぐりあわせもあって、夢のような暮らしを送っている。
頼まれごとは、時間つなぎでやらされているものではなく、自分のオリジナリティを発揮できるものにたどり付けている。
傍からすると、乏しく歩く自分の姿が惨め見えるかもしれない。
でも、本人にすると、街を見て目くるめく思いができるのは、本当に恵まれていることだ。
とりあえず今日見た映画を参考にして、長年気にかかっている「福岡出身のおじさん特有の髪型」の実践を試みようと思う。