塞栓
ある日の朝、起床後、顔を洗い、麦茶を飲み、チーズを食べ、ポッドキャストを聴こうとすると、左耳からの音が聞こえない。
以前から、体の左半分の調子がおかしい、とは感じていたが、まさか耳がつぶれるとは予想していなかった。
右耳の聴力だけでこれから生きていくことになるのか。
ということを思ったのは1秒程度で、イヤフォンの左右を変えると、今度は右耳からの音が聞こえない。
また、イヤフォンが壊れてしまった。
今回壊れたのはワイヤレスイヤフォンである。
「すべてのイヤフォンは消耗品である」との心得はある。
イヤフォンを比較的酷使しているという自覚もある。
とはいえ、購入からわずか1年半、毎日使うようになってから約1年で壊れた。
そもそも、ときどき電源が入らなくなることがあり、その時はUSBにケーブルを差し込んでリセットする必要があった。
何とかごまかしながら使ってきたが、また出費だ。
その日の昼に、家電量販店に向かう。
値段を記憶しておらず、売り場で同じ商品を見て、愕然とする。
4K円を超えている。
午後の時間、ずっとそのことを考えて、帰宅時に家電量販店に寄る。
別の商品を見て、ランクを落とせば安いものがあるものの、USBコネクタががmicro BだったりコーデックがSBCだったりしてやめた、コーデックのことは聞かないでほしい。
買い替えでランクを上げたいところだが、やはり予算がない。
結局、同じ商品の色違いを泣きながら買う。
同情してくれたのか、店員も泣いていた。
春は近い。
壊れたイヤフォンだが、きっと断線しているだけであり、左側につながるコードを外から押してみたりねじってみたりしたが、直ることもない。
説明書を読み直すと、「充電式電池のリサイクルに協力してくれる方はここに送れ」とある。
神棚に備え、1時間ほど祈祷したうえ、茶封筒に入れ、住所を書いて、次の日120円切手を貼って、ポストに投函した。
「充電式電池在中」と赤字で書いていたので、きっと航空便で輸送されることはないだろう。
普段は、ジャケットのポケットにイヤフォンを入れて、マクドナルドで取り出して「証言者バラエティ アンタウォッチマン」を視聴するために使っているのだが、その扱いが断線の理由なのかもしれない。
ひとまず、イヤフォン積立貯金でもしておこう。
そして、断線リスクを恐れず「高級イヤフォンを買おう」という勇気のある者こそ、本当の富裕層と言えよう。
僕からしてしたら、大西洋を西へ向かおうとするくらいの冒険である。