境界
男・還暦祭りの先行予約を済ませ、出かける。
渋谷駅で降りる。
プラットフォームからハチ公口改札に行くまでに、早くも憂鬱になる。
大きな男と、女装おじさんの脇を抜け、階段を降りる。
道玄坂は、えげつないにおいが立ち込めており、歩道の脇には一切近づけない。
道とん堀劇場の前を通る。
松村邦洋の話だと、看板屋が「道玄坂」とするところを間違えたからこの名になった、とのこと。
午前中でも、ホテル街は縁遠い。
ユーロスペースに到着。
公式ウェブサイトで上映開始時刻を確認してから来たが、ぎりぎりの時間になった。
ここに来るのはおそらく5回目だが、相変わらずここにくる時は時間が遅れがちになる。
渋谷の地理が方向感覚を鈍らせるのと、渋谷の街の移動時間を正確に読むことができないことが、理由だと思う。
入り口には、「山女」の横断幕。
エレベータで3階に上がったが、フロントの後ろに掲げられた情報を確認すると、上映時刻がウェブサイトと異なる。
どうやら、事前に見ておいた映画情報を集めた外部サイトの情報の方が正しかった。
把握していた時刻より遅かったので、よかった。
窓口には客がいて、スタッフと話している。
スタッフが相手の名前を確認し、自分の名前を告げる。
2人は知り合いのようだ。
スタッフが「今日は眼鏡をしていないので、わからないかもしれませんが」と答えている。
自分の番が来て、映画の名前を告げると、スタッフから「スクリーンが1と2で逆なのですが、いいですか」と言われた。
事前に報知している、そして窓口の後ろに掲げているスクリーン1・2で上映する作品が、実際は逆であるらしい。
スクリーンが事前情報と異なるから見ない、という人もいてもいいのだが、気にしないので「はい」と答える。
席を指定するように言われ、ディスプレイを指さし、後方中心の座席を求める。
でも、なんかうまくいかないらしく、チケットに手書きで座席番号を修正してくれた。
トイレで用を済ませ、フロントのベンチに腰掛けると、先ほどのスタッフが歩み寄ってきた。
眼鏡を着用したスタッフから「もう一度、座席指定をしていただいてもいいですか」と頼まれ、また窓口に行く。
どうやら、もう一方のスクリーンの座席を確保してしまったようで、改めて正しいスクリーンの座席を確保してもらい、チケットを得る。
眼鏡をかけた以上、このスタッフのこれからの働きには大いに期待できる。
手続きを終えて振り返ると、先ほどまで10人分ほど空いていたベンチがすべて埋まっていた。
普段自分がいる場所と比較すると、ミニシアターは、時間の流れ方がまだまだ違うようだ。
ポスターを眺めて、時間をつぶす。
近々、「台風クラブ」4Kレストア版が公開されるようだ。
シナリオや出演者インタビューなどが収録された書籍も刊行されるらしい。
きっと見に行ってしまうのだろう。
開場時間が訪れ、上映室に入り、しばし待って、予告編が始まる。
「福田村事件」、見に行くだろうか、たぶん見ないだろう。
田中麗奈さんをスクリーンで見た、ということで、済の箱に入れる。
久保田紗友主演「Love Will Tear Us Apart」は、人がたくさん死ぬみたいで、興味を持てた。
暗くない映画を求める。
映画「658km、陽子の旅」。
ロードムービーが大好き、というだけで、つい見に来てしまった。
デビュー以来終始華やかな印象があった菊地凛子がコミュニケーションを苦手とする役を演じており、その演技に圧倒された。
内容は納得のいくもので、秀逸だったのは、トラブルに見舞われた竹原ピストル演じる男性に向けて妻が言った「運転、代わろうか?」のセリフ。
「相手は絶対に断る」と見越した申し出を差し込むところに、監督の粋を感じた。
映画が終わり、階段を降りる。
2階では「東京学生映画祭」が開催されており、地下1階では「国葬の日」の試写会が行われていた。
みんな、タフである。
坂を上り、まだ餃子の王将。
カウンターでハイボールを3杯飲んで外に出ると、真夏の太陽が熱い。
マークシティの中を下り、啓文堂書店に入る。
入った瞬間、旦過橋QUESTの記憶がよみがえる空気。
渋谷からいくつも書店が撤退したが、まだまだこの雰囲気が残っているものだなと思う。
いったん地上に出て、また地下に戻り、渋谷東急フードショー。
「渋谷の底」という感じの強い空気感。
もちろん、換気はされているだろう。
帰ったら、ハイボールのせいか、渋谷のせいか、暑さのせいか、体がだるい。