象筑
自覚がないのだが、起床後の周囲のへたりぶりを見ると、昨夜はかなり飲んだようだ。
とうきびチョコの袋を探すが、昨夜めいが自宅へ持ち帰ったとのこと。
朝食を済ませると、父がスマートフォンを持ってきて「直してほしい」という。
当然触ったことすらない機種だし、壊れているとしたら僕が直せるわけもない。
「自分は時々根気強い人間である」と暗示をかけ、どういう状態に「直してほしい」のかを丁寧にヒアリングし、ウェブの検索で調べながらいくつかの設定をいじり、「直して」あげた。
もちろん、父からの感謝の言葉ない。
そういえば、以前母から「衛星放送が見れんくなった」と連絡があったことを思い出した。
その時は障害の切り分けをするべく、電話で「レコーダーでBSが見られるのか」と尋ね、「レコーダーってなんね」と返され、15分くらいのやり取りを根気強く続け、結局アンテナとレコーダーの間のケーブルに問題があるらしいことまでわかって、聞いたら「掃除のときにケーブルをまとめたことがあった」との話だったので、あとは業者に言ってくれ、と終わらせたのだった。
「あれ、どうなったんかね」とその後の顛末を聞くと、電器屋は相手にしてくれず(本当か?)、ネットで家電110番とかいうのを見つけてに電話し(この場合119番の方が適切な屋号ではないのか?)、遠賀の方からわざわざ来てくれて(本当にわざわざ来てくれてありがたい)、ケーブルの交換をして、20K円を請求された、とのことだった。
思わず「20K円?」と問い返してしまったが、その時ついでに「アンテナが横を向いています。方向を調整しておきますね」とのことで、プラス5K円かかったそうである。
1時間くらいかけて来てくれたので、それくらいの費用が掛かっても仕方ないとは思う。
僕を呼べば、往復50K円はかかるのだから。
そうはいっても、この先の生活を想像すると怖くて仕方ない。
事情があって、到津の森公園に向かう。
「あそこの仏壇屋、立地が立地だけに三色旗が看板にデザインされているな」などと思いながら、タクシーの車窓をやり過ごす。
先週のPAO~N「ペペ3」で到津を特集していて、この辺でベーブ・ルースがホームランを打ったか、この辺に造花店があるのか、と感慨に浸る。
公園の正面玄関に到着。
僕は、林間学園の経験者である。
小学1、2年の時に1週間ずつ、いずれも後期に通った。
路面電車で通ったことと象の写生をしたことだけがいいことで、後はろくな思い出がない。
小3のころ、仕事終わりの父に「夜の動物園」に連れて行ってもらい、帰りに寿司を食べた気がする。
最後に到津遊園に来たのは、小学生の高学年だっただろうか、よくわからない。
要するに、少なくとも30年は来ていない。
ちょっとくらい覚えている風景があるかと思っていたが、園内を見ても記憶と符合するものがない。
運営が西鉄から市に代わり、行動展示の先駆けとも言われるリニューアルをしてから初めて来たのだが、記憶と違いすっかり変わってしまっている、という感覚だ。
地形はそんなに変わっていないはずだが、雰囲気が変わっているので、懐かしさはない。
水辺の鳥の展示の箇所がかろうじて記憶をくすぐり(以前はこの近くにレッサーパンダの展示があった)、フクロテナガザルがうるさい。
遊具のある場所に行っても、昔の記憶と合うところはほとんどない。
ただ、サイクルモノレールは覚えている形で健在であり、それを基軸に過去を思い出そうとしたが、やはり何も思い出せない。
「何かの初めて」という触れ込みだった2回転宙返りスカイループコースターももうないが、「こんなに苦労して乗らないかんのか」という丘の上の観覧車は動いている。
当時は確か、3,000円くらい払えば、遊具が乗り放題だったはずだ。
ロバ乗り場の場所は変わっていないと思う。
記憶と違いがないのは、森の音楽堂である。
林間学園の時は、毎日まずここに集合した。
ベンチに座ってみるが、これがまた特に感慨もない(僕が悪い)。
到津の森公園として残っていることには、とにかくとにかく、感謝したい。
豊かな街である。
園を出て、バス停に向かうと、ちょうどメルセデス・ベンツ・シターロがやってきたので、勢いで乗る。
せっかくの連節バスだが、降りるまでに威力を発揮したのは、陸橋を降りたところのX字路を軽く左に曲がった時のみである。
特別快速は目的地のバス停に止まらないため、書店前のバス停で降りて、少し歩く。
両親が言及していた病院の前を通り、うどん屋に到着。
肉うどんに、別皿でゴボ天、丸天、しそおにぎりを頼む。
今回わかったのは、肉の味がうどんのだしを乱すので、僕にはあまり合っていないこと、別皿の丸天が揚げたてで、うどんに入れないで食べる方が僕には合っていることだ。
おはぎまで食べて、この値段か、と感激と驚愕し、Visaタッチで支払う。
隣のスーパーマーケットで休んでいると、館内にリピートするテーマソングが頭にまとわりつき、忘れられない。
ここはひとつ、CMでおなじみDate of Birthの名曲でいいのではないのか。
変わってしまった道路構造を抜け、変わらない路地を抜け、校舎を建て替えたので面影の残っていない中学の前を冷やかし、以前月賦百貨店があったところに考えられないたたずまいをしたガラス張りのカフェがあるのを横目にして、少し不便になったバスを待って、実家に戻る。
夜は、おでんに、しめさば。
枝豆ばかりを食べる。
昨日のからすみは、もうない。