投費
若いみなさんは、すでに大きな資本を手にしています。
それは、「人的資本」です。
例えば、新入社員1年目の人は、これから40年間年収400万円を稼ぎ続けるとして、割引率を2%とすると、仮に年収が上がらないとしても(年収が新人の頃のまま、なんてことありませんよね)1.2億円相当の資本を保有していることになるのです!!
…もはやこんなことを言う人もいないだろうし、こんなことを言われて「自分は億単位の価値がある」などという根拠のない自信を持つ人もいないと思う。
1億持っていると言われても、明日の飲み会で徴収される会費に感じる憤りは一向に収まらない。
そもそも、その億単位の価値がある人はノーコストなのか。
そんなことはないだろう。
年収1,000万で浪費が990万なら、そいつのランニングコストを引いた上がりは10万だ。
役に立つかわからないが永遠に働かせるとして、割引率2%でも500万くらいの資本価値しかないことになる。
納税分を考えなければ、実際500万の価値もないやつなのかもしれない。
ここで、面倒を避けるためのディスクレーマーを置いておくが、「人的資本」の正確な概念は文献をあたってほしい。
よく読んでも、1億円の株券と同等の価値があって市場で売れるんだ、というわけではなさそうな気がする。
とにかく、数字遊びで悦に入らず、営業キャッシュフローを地道に稼ぐよりほかない。
ところで、「自分への投資」してますか。
僕はやっています。
「投資」と言っても、事実上「必要かと言われれば必要ではないが、かといってそれをやめてしまうのは何のために暮らしているのかわからない、と思えてくる埋没費用」のことを、「投資」と称しているだけだ。
どれを言うかというと、例えば、食費や下着、飲まないと頭がぼんやりしてしまう薬などの入手費用は、まあ間違いなく必要なものなので、この枠には入らない。
一方で、映画を見たり、本を買ったりする費用は、省略しても支障がないはずだが、それでもやめるわけにもいかないので、「投資」呼ぶことにする。
あるいは、人にものをあげたり、場の流れで食事をすることになり不参加の言い訳が思いつかなかったりするときに生じる費用もそうだ。
要は、必要経費でもなく回収もできない費用のことを「自分への投資」と呼んでいる。
人によっては、というより普通は、こういう費用を「生活費」とか「遊興費」とか呼ぶ。
ただ、これを「費用」と呼んでしまうと、「だったらできるだけカットしよう」と撤廃に躍起になり、潤いのないカサカサの生活になってしまう。
「投資」と呼んでおけば、それによる効果を得ようともがくことにより、費用の使い方を慎重に考えるようになるし、支払った後の行動も変わってくる。
ここで、「お前は、人との交流を「投資」と呼ぶのか」という軽蔑を受ける覚悟が必要になる。
そんな感想に対しては、控えめに「はい、そうです」と答える。
今後の関係を良好にしてより楽しい生活を送ろう、そのための投資だ、だから今この瞬間相手にいい思いをしてもらおう、と心底思っているのだから、これが本心である。
もちろん、結果が出ているかどうかは、自信がない。
さて、「自分への投資」とは具体的にはどのようなものか。
その1つがよく言われるやつ、資格を取ったり専門書を読みこんだりし、仕事のスキルを上げることだ。
仕事中、僕はとにかく早く家に帰りたいと考えている。
だからこそ、迅速にストレイトに結果に到達する術を常に探しているし、面倒な相手をいい気分にさせつつ黙り込ませて別の餌食に関心を向かわせるテクニックを磨いている。
でも、「自分への投資」の大きな割合を占めるのは、先ほども例に上げた飲み会や人へのプレゼントの費用、いわゆる「交際費」である。
避けられるものはできるだけ避けるようにしているが、参加したほうがいい、感謝を伝えたい、と思う関係が増えているのも事実だ。
決して付き合いのいいほうではないのは、お察しの通り。
それでも、交際費を年間で総計してみると、はっとするほどの金額になる(ぜひ、やってみたほうがいい)。
なので、誘われたからと言って無感覚に金を使わないほうがいいし、ましてや「人の付き合いに金銭感覚を持ち込むなんて無粋だわ」という顰蹙はぜひ耐えたほうがいい。
ここで金を使うことで、相手とどのような関係を築き、次に何をしてどのような成果を得るのか考えて、飲み会に臨み人と接する。
「打算的だ」と思われればその通りだけど、僕にとって「平和」は重要なインフラであり、何よりもメンテナンスしたいものである。
もう1回言うが、うまくいってないけど。
あとは、旅行の費用も「自分への投資」に当たる。
これも「投資」などと呼ぶことで、費用を削られることを守る。
その他、いわゆる娯楽的なものや、後悔先に立たず思い付きで購入したもの、裸眼でもどうにかなるのに買うコンタクトレンズの費用などを、「自分への投資」と呼ぶ。
そして、費用を費やした以上は、その費用に似合う収益を得ようと考えている。
それでは、どのくらいの収益を得れば回収できるのだろう。
例えば2019年の「自分への投資」の総額は約30万円だが、それを例に考えてみる。
30万円をいわゆる投資に突っ込んだとした場合、年間4%のリターンがあるとしよう。
それと同等のリターンを得るには、僕の年収の水準が投資前より12,000円上がればいい。
12,000円も上がるのか…、と思うが、月収に換算すると1,000円である。
30万円の投資の効果は、月給を1,000円上げることと同等である。
早速賃上げを交渉してみよう。
いやいや、ちょっと待て。
30万円を市場に投資した場合は、元本とは別に4%のリターンを期待している。
なので、「自分への投資」も、リターンとは別に元本の回収も考えよう。
企業と違って、この投資先は、早晩つぶれてしまうのだ。
例えば、月収が今より2,000円上がり、それが恒常的に続くとしよう。
そのうち1,000円を市場で年利4%で運用できるとすれば、20年以内に埋没費用30万円も回収できる。
逆に言うと、定時昇給というのは、「君たち被雇用者は、定時昇給に似合うだけの投資を自分自身に対してしなさいよ」という経営陣からの熱いメッセージと言える。
そう考えると何だか押しつけがましいようにも思うが、前向きに受け取ることにして、自分磨きを怠らないようにしたいものだ。
そして、上司との付き合いを軽くあしらい、早く帰ろう。
「自分への投資」をしても微々たる昇給に過ぎず、生活が全くよくならないように思えるが、利率を考えると所詮そんなものなのだとわかる。