火星
トラブルに巻き込まれて、待機することになった。
「もう解散でいいのではないかな。この時間だったら、映画を見に行くことができるのだけど」
そんな軽口をたたくと、「何の映画を見に行くのですか」という質問を引き込んでしまった。
深く反省する。
「いや、見たいドキュメンタリ映画があって、細野さんの映画なのだけど…、細野晴臣…、細野晴臣、知ってますか、はっぴいえんどの…、YMOの…、ミュージシャンの…」
「ミュージシャンのドキュメンタリを見に行きたいのですね」
「…そう、音楽家のね…。早く散開にならないものかね…」
「…」
世の中は、細野晴臣を知らない人たちと、細野晴臣を詳しく知っている人たちに二分されるのだろうか。
僕は、全く知らないわけでもなく、熱心で詳しいわけでもなく、何というか、一般常識として広く薄く物事を知っているに過ぎない。
なので、ある方面からは「よく知っているね」と言われ、ある方面からは「何も知らないのですね」と言われ、そのどちらからも距離を置かれるし、自分も居心地が悪い。
そのような自分が比較的はまるコミュニティの種類は「クイズ好き」なのだが、「クイズマニア」はクイズそのものに熱心であり、僕は熱心になることがないので、また話が合わない。
つまり、どこに行っても常に孤立し、誰とも分かり合えないのだ。
当然、自分のせいである。
それで、映画「NO SMOKING」を見てきた。
まずは、埼京線で渋谷駅を目指す…、目指してしまった。
渋谷駅というが、ここはやはり最後まで「南渋谷駅」である。
さらに、工事が進んでいて通路が狭く、前に進みづらい。
あと半年ほどの辛抱だろうか。
3階の中央改札から出て、下って、下って、横断歩道を渡って、裏道を通って、文化村のほうに出ようとする。
…混雑が嫌でスクランブル交差点を避けたのに、結局人が多くて、また11月の18時はもうすでに暗く、思うように進めない。
マークシティから道玄坂上に出て、そこから下ればよかった。
ユーロスペースに到着。
おそらく4回目で、今の場所に移ってからは初めて。
列に並び、上映時刻を1分すぎて、チケットを購入できた。
スタッフが「現在、予告編中です」と告げる。
毎回に共通する理由を見いだせないが、この映画館だとなぜか上映開始ギリギリになってしまう。
それで、見る。
最初のほうに出てきた「自分は戦争に行かなくていいんだ」という述懐が、心に残る。
不戦は、インフラである。
終わって帰ろうとすると、人が勢いよく入ってくる。
ビラでも配られるのか、と恐れていると、これから監督のトークショーが始まるという。
全然知らなかったが、ラッキーである。
この辺の知識に詳しくなく(僕は、どの知識にも詳しくない)、トークショーで話された内容はあまり理解できなかったが、それでも、細野さんの魅力が改めて語られ、新たなことにストレートに挑戦する細野さんの姿勢に感服した。
映画館を出て、道玄坂上のほうに向かう道を進む。
例のカートがこんなところまで入ってくる。
何が楽しくて、こんな場所に来るのか知らないが、狭い道を通行されると危なくて仕方がない。
前回この辺りに来たのがいつだったか全く思い出せず、そもそも来たことがあったかという疑いすら生まれ、悲しくなる。
マークシティで夕食。
列車なのか、バスなのかわからないが、通るたびに店内が振動する。
山手線の乗り場まで行くのが面倒で、銀座線に乗る。
この銀座線の乗り場を使うのも、もう最後になるかもしれない。