曇天の続き

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2018-11-05 Mon.

指南

2018-11-05

少し前のことになるが、実用英語技能検定を受験した。

きっかけは、このところ外国人に道を尋ねられることが頻発していることにある。
もともと、外国人に限らず、道を尋ねられることはあった。
おそらく、無防備な面構えをさらして歩いているからであろう。
プサンで、韓国人に韓国語で道を尋ねられ、旅行者であることを伝えると、今度は英語で尋ねられるほどである。
この時は、さすがに参った。

最近では、月に1度の頻度で外国人に声をかけられる。
外国人とすれ違う際、回避しようと道の反対側に行っても、追尾されてまで道を尋ねられることもあった。
新宿で、「ディズニーリゾートに行きたいのだが」と言われたのだ。
とても「東京駅で京葉線に乗り換えろ」とは言えないので、「バスタがある」と教えた。
先日は、駅構内で、15分で2回声をかけられた。
内容は、「自動改札が通れないのはなぜか」と、「成田空港行のチケットを手に入れるにはどうしたらいいか」である。
そんなに職員顔をしているのだろうか。

道に限らず、そもそも人に物事を教えることが苦手である。
筋道立てて説明することは難しいし、相手の理解の進度が自分と異なることにいら立ってしまう。
先日この事実について披露すると、職場の若手が「いつもすみません」と謝ってきて、自分が失言をしてしまったことに気づかされた。

ましてや、英語での質問に対して英語で返答するなど、うまくいくはずもない。
道を尋ねられ、相手がどこに行きたいのかを理解し、しかもそこまでのルートを把握しているにもかかわらず、満足な回答を与えられない。
別れる際、「Have a nice trip!」と声を掛けつつも、深い失意に陥っている。

少しは英語で応えられるようになり、惨めな思いを回避したい。
その練習になるかと思い、面接試験がある英検の受験に思い至ったわけだ。

それで、何級を受けるか検討した。
受け答えが著しく苦手なので、まずは中学卒業レベルの3級でいいか、と思い、書店でテキストを探す。
書店には、「小学生がチャレンジする英検3級」みたいな本があって、少し不安に思う。
20世紀中にわびしい青春を終えた人間が、小学生に交じって試験を受けるのか。
よく調べると、未就学児が英検3級に挑むケースもあるらしい。

そこで、英語関係では頼みにしている、僕のいとこに相談する。
彼は、都道府県立高校に勤務する英語教師である。

「英検3級を受けようと思うのだが」と打ち明けると、「アホか」と呆れられる。
いつも僕の向学心を打ち砕く教師であるが、話を聞くと納得する。
大学を出ている人間が、いくら何でも英検3級を受けるとは情けない、2級でも受かる、とのこと。
ちなみに、彼は英検1級合格者なのだと、この時聴かされる。
「でも、面接があるだろ、俺は英語を全く話せない、母国語で意思を伝えるのもままならないくらいなのだ」と説明したが、「それでも、3級はひどい」と返される。

実際、3級だと小学生に交じって受けることになるかもしれない、という恐怖がある。
かといって、2級は無理な気がする。
父親が、今の僕と同じくらいの年齢で英検2級を受けていて、模擬試験で3割の得点であったことをよく覚えていた。
偉大な父親を、そうそう超えられはしない。

そこで、高校1、2年レベルとある、準2級を選択した。

一次試験当日。
受験会場は、私立中学校である。
駅から会場までバスが出ていた。
バスに乗っているのは義務教育を受けている生徒か、せいぜい高校生ばかりである。
自分と同年代の人も見かけるが、どうやら子どもに同伴した保護者のようである。

受付で並ぶ。
前に女子中学生らしい人が並んでいて、「同じ準2級を受けるのか、共に頑張ろう」と心でつぶやいたが、ちらっと見えた受験票には「準1級」と書いてあった。
やれやれ。

中学校の教室など、いつ以来であろうか。
席は自由とのことなので、他の受験生に遠慮して、左後方に陣取る。
20世紀生まれは、教室内でどうやら僕だけのようだ。
後から入ってきた試験監督も、自分の半分くらいの年齢のように見える。
あまりに手際が悪いように見受けられたので、「言っていること、よくわからないんですけど」と言いそうになる。
偉ぶって、威張っていて、ビジネスルールに浸りきったおじさんは、嫌われるし、僕も嫌いである、ここは、がまんがまん。

筆記試験を20分くらいで終え、残り1時間外を眺めて過ごす。
グラウンドでは、ハンドボールの練習が行われていた。
日曜を自分の自由に使えず、学校に来て課外活動にいそしむなど、尊敬してしまう。
僕は、ハンドボールもまともにプレイできないし、ハンドボール部の活動にも適応できない。

リスニングテストも、確信をもって回答を進める。

後日、結果発表。
一次試験の結果は、リスニング1問を落とした。
憂鬱な二次試験である。

二次試験会場は、駅から徒歩20分の、川のほとりキャンパス。
僕は駅から歩いて行ったが、後ろから車が何台も追い抜いていく。
山2つ超えて会場にたどり着き気づいたのだが、受験者の保護者が車で送迎しているようで、歩いて現場に到達したのは僕だけのようだった。
英語の勉強もいいけど、単独で受験するための社会勉強も必要なのでは、という袋叩きの目にでもあいかねない意見をつぶやく。

受付まで時間があったので、復習しながら今後の生活を想像する。
僕は、国内の都市を廻るのが好きである。
もし、今の仕事が手を離れ、自由な身になり、生活に余裕ができたのなら、都市を転々と回る生活をしてみたい。
旅行で訪れるのではなく、実際に住んでみるのだ。

各地のウィークリーマンションを借りる。
図書館とスーパー銭湯の近くだと、退屈しない。
現地で簡単な仕事を得られれば、言うことはない。
朝は自炊し、昼は食べない。
たまに地元のラーメンを食べて、夜は時々居酒屋で過ごし、早く眠る。
数か月暮らして、気候のいい場所に移動する。
候補は、札幌から、函館、仙台、新潟、金沢、名古屋、京都、大阪、岡山、広島、福岡、鹿児島といったところか。
それを実現するためには…、まず英検準2級に合格しよう。

試験の待機所には、中年女性が1名いた以外は、ほとんどが子供である。
世の中の中高年は、すべて英検を所持しているので、ここには来ていないのだろう。
僕の方が遅れているのだ。

やがて、試験室の前に誘導される。
待機していた受験者が、ドアをノックして「May I come in?」と声をかけた。
えーっ、そんなこと言うの?
付け焼刃も甚だしいが、結局それに見倣い、自分の番でも言ってしまう。
迎合したことが恥ずかしい。

やりとりに1か所詰まってしまったが、それ以外は何とかこなせた。
機械的に進めていく面接官が印象的だった。

二次試験の結果は、合格。
これで、晴れて英検準2級所持である。
英語での道案内に苦慮しているのは、まだそのまま。

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