嘘みたいなBTMU
タイトルに固有名詞を使ってしまったことは不本意ではあるが、ただ言いたいがためだけのものであり、他意はない。
以前、家賃の振り込みのために三和銀行の口座を作ったことがあった。
三和銀行は、UFJ銀行を経て、現在三菱東京UFJ銀行へと合併を果たしている。
合併後に銀行に行き、三菱東京UFJ銀行の通帳とキャッシュカードを作り直した。
そして2016年、三菱東京UFJ銀行でインターネットバンキングを始めるべく、ウェブサイトから手続きを試みた。
でも、うまくいかない。
やむをえず、支店へと足を運ぶこととなった。
無産階級の僕にとって、銀行は居心地の悪い場所である。
「慇懃」という言葉が最も当てはまる場所が、銀行ではないだろうか。
この日も、警備員に頭を下げられ、受付カードを引き抜こうとすると行員が寄ってきて、早くも疲れる。
順番を待っていると、品のいい女性従業員がJALカードを勧めてくる。
「カードは何をお持ちですか」
「○○カードを主に使っているので」
「私も持っております、ところでJALカードはお持ちではないですか」
「あいにくですが…」
「飛行機に乗ることは?」
「JALに乗ることはめったにないのです」
女性は、がくっと右側の肩を(本当に)落とす。
そんなやり取りをしていると順番が回ってきたので、話が打ち切られる。
仕事とはいえ無駄な営業をさせたことが、申し訳ない。
窓口の女性行員によると、僕の口座は長年使われていないため、休眠口座となっているとのこと。
取引再開のためには、いったん口座を解約し、改めて新規口座を開設する必要がある。
「そうしましょう」と快諾し、手続きを進めていただく。
「ところで、お客様は当支店のお近くにお住まいですか」と尋ねられる。
ここは新宿であり、僕は自宅住所を告げ「近いといえるでしょうか」と尋ねる。
「口座は、ご住所の近くか、勤務先の近くの支店でしか開設できないことになっております。どうしても当支店で口座を開設する理由がございますか」と尋ねられる。
「当支店で口座を開設する理由」など、資金繰りの相手をしてもらうためのクレジットを持たない僕に、あるとは思えない。
「支店のことはよくわかりませんが、私はこの銀行をメインバンクとしたくて、口座開設をしたいと望んでおりますが」と答える。
「少々お待ちください」と女性は引っ込み、待たされる。
仕方がないので、外貨預金の案内パンフレットでも眺める。
何でも、日本円におけるインフレリスクへの備えとして、外貨預金を提案しているとのこと。
マイナス金利の現状では、資金が実質的に目減りする可能性がある、とあり、時系列でマイナス方向に下がっていくグラフを見せられる。
指数関数的に下がっていくグラフを銀行で見るような時代になったのか、と感心する。
10分ほどで、行員が戻ってくる。
「申し訳ありませんが、当支店で口座開設することはいたしかねます。ご自宅の近くにある支店をご案内いたしますので、そちらで開設いただけますか」とのご回答。
そうでしょうね、と言うのをぐっとこらえ、「そもそも、平日に自宅近くの店舗に行くのが困難ですので、この時間にここにきているのですが」と返す。
「それでしたら、あちらにテレビ電話窓口がございますので、ご案内いたします。そちらですと、ご自宅の近くにある支店で口座開設ができます。お時間ございますか」とのこと。
「支店には全くこだわらないので、この時間で口座開設まで済ませたいと思います」と答えたので、テレビ電話窓口へと案内されることとなった。
画面に女性の姿が映る。
手元には申込書があり、これに記入するよう、受話器から指示される。
申込書に必要事項を書き、押印し、運転免許証ととともにスキャナにセットする。
スキャナした書面を確認され、「眼鏡をはずしてカメラを見てください」と言われ、その通りに行う。
「申込書の印章がにじんでおりますので、もう1度押印願いますか。朱肉はぽんぽんと軽くつけるだけで結構ですので、押印時に強く力を入れてください」と、ご丁寧に印の押し方まで教えてくれる。
日常的に押印することがなく、慣れていない作業に相手を手間取らせ本当に申し訳ない気分になる。
行員による手続きのために、しばらく待たされる。
手持無沙汰なので、VISAデビットのパンフレットを眺める。
デビットカードなど、いったいいつ使うのだろう。
ヨドバシカメラで、クレジットカードだと8%になってしまうポイント還元を忌み嫌う時しか、これまで経験がない。
ほどなく、JALカードを勧めてきた先ほどの品のいい女性が近づいてきて、先ほどと全く同じやり取りを最初から行う。
きっと疲れているのだと思う。
30分くらいで口座開設手続きは終了。
後日、自宅にキャッシュカードなどが送られてくるとのこと。
ウェブ通帳にしたので、紙の通帳を受け取ることはなかった。
手続き終了時に、女性が初めて笑顔を見せ、モニタの電源が切られた。
銀行は、今もなお「支店」という概念に束縛されていることが垣間見えた。
みずほ銀行であればスマホで口座開設できる、と永島聖羅が初々しい感じで出演するCMで見たことがあるが、横並び業界だからこそBTMUでも同様のことがきっとできたはずだ。
でも、この日の煩雑さを踏まえると、結構面倒なやり取りが待っていることが想定される。
結果的に支店に行き、銀行の現状を観察できたことが、この日の収穫であったといえよう。
金融機関にとっては、僕の口座など、データベースを汚す存在にしか思われていないのでは、という被害妄想を抱き、新宿を後にした。