分布
JAバンクのCMで、
「JAバンクの手数料無料ATMは、全国で約62,000台。日本の国土は、377,950平方km。つまり、半径1.4kmに1台はある計算」
と説明されている。
「あくまで計算上だけどね」と美人に念を押されているので、くだらない反論(直線距離にしたらだろ、とか、うちの近所にはない、とか)をするのは興ざめだ。
それ以前に、僕はこの「計算上」という言葉にひっかかっている。
面積とATMの数から、最も近いATMまでの最長距離を求める計算は簡単なものではないのではないか(そう思う理由は、話すと長くなるので後で示す)。
そして、計算方法も明かさずに、ATMまでの距離の近さをアピールするのは、実に怪しい。
CMの制作主は計算方法を説明し、その方法を視聴者に検証してもらうべきだ。
それをしないようなら、僕らの味方であるJAROが、この紛らわしい広告を審査してくれることであろう。
まず、CMで説明されている数値はどうやって導かれているのか。
CM上では計算過程を明かしていない。
数字をいじってみると、次のように計算していると推測できた。
377,950 / 62,000 = π * r * r
r ≒ 1.4
つまり、国土の面積と、62,000個分の円の面積の合計が等しくなるような円の半径を決める問題に帰着している。
あくまで推測だけどね。
この考え方では、半径1.4kmの円を62,000個敷き詰めたものを国土として考えている。
しかし、円を隙間なく、また重ねることなく敷き詰めることはできない。
円の隙間をあけてしまえば、隙間の点から円の中心までの距離は1.4kmよりも大きくなるし、そもそも隙間分の面積をカウントしてしまうと、総面積は国土の面積を超えてしまう。
また、円を重ねることを許せば隙間をなくすことは可能だが、面積が足りなくなる。
この問題で円のモデルを使うことは、適切なのだろうか。
それとも、二次元であることを無視した、数字のトリックなのだろうか。
ここは、円ではなく正六角形を使って考えてみる。
正六角形であれば、隙間なく、また重なることなく敷き詰めることができる。
正六角形の重心にATMを設置することにする。
正六角形の内部で、重心から最も遠い点は、正六角形の頂点である。
国土の面積を正六角形の個数(ATMの数)で割り、正六角形の面積を求める。
その面積から、重心から頂点までの距離を求める。
377,950 / 62,000 = 6 * 1/2 * sin(π/3) * r * r
その方法だと、約1.5kmという値が出てきた。
CMと比べると、1割増し程度の値である。
ただ、正六角形で形成された図形の周縁部分で、正六角形の辺を円弧に置き換えればもう少し面積を稼げる。
それをどうやって計算すればいいか、僕にはわからない。
もしかしたら、それを踏まえると、CMで言っている1.4kmという数値が導き出せるのかも知れない。
おそらく、携帯電話のアンテナを設置する計画に携わっている人なら、明解な解答を出してくれることと思う。
要するに、間違っていたら恥をかくだけなので、こういうことには手を出さない方がいい、ということだ、僕も含めて。