苦行
2008-05-06
この頃マンション購入についての営業電話がよくかかってくる。
ゴールデンウィークだから、モデルルームの見学に来てもらいたいのだろう。
先日も、1本の勧誘電話が自宅にかかってきた。
僕は、「マンションを買う予定は全くありません」とはっきり言ったのだが、電話をかけてきた販売員はしつこく食い下がり、いろいろなことを尋ねてきた。
現在の家の間取りとか、家賃とか、最寄り駅とか、職業とか、出身とか。
話の糸口を見つけようとする、相手の必死の様子がよくわかった。
そのときの僕は時間をもてあましていたので、電話に付き合うことにした。
できるだけ丁寧な口調で、しかし強い拒否の姿勢を示す受け答えを心がけた。
すると、意識したわけではなかったのだが、水谷豊演じる杉下右京の言い回しが何度となく口をついた。
もしかして、これは杉下右京の物まねができるめったにないチャンスではないか。
そう気付いた僕は、見ず知らずの方を相手に、杉下右京の口ぶりを思う存分繰り広げながら電話応対を始めた。
電話の相手は、そんな僕の態度に対して何も変わることなく、営業トークを続けてくれた。
僕は、話しているうちにだんだんと楽しくなり、余計にも「一つだけ」と質問までした。
そんな応対を15分ほど続けて、会話は終わった。
電話を切ってほんの少し後に、深く深く深く深く後悔してしまった。
電話の相手が僕との電話によって方向を変えることはないと思うが、きっと僕が何をしているのかさっぱりわからなかったことだろう。
営業は大変な仕事だ、と人ごとのようにつぶやく。