曇天の続き

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2024-05-11 Sat.

東酔

2024-05-11

TELASAに加入したら、映画がいくつか観られるとのこと。
リストを参照した結果「東京夜曲」を見つけたので、観ることにした。

長塚京三、桃井かおり、倍賞美津子、上川隆也、そして、市川準監督作品。
「40代の男女の移ろい、さまよう心を優しく綴っていく切ない大人の愛の物語」とあり、さすがにこの歳になれば理解できるか、と期待して。

結果、全く理解できない。
もう絶望的までに、理解できないという状況が絶望的状況とみなされることが理解できるくらいまでに、全く理解できない。
「人の心の機微と東京の風景」とあるが、東京の風景ばかり気になってしまう。

そもそも、最初から話に入っていけない。
物語の舞台となる場所から始まり、主人公の人となりについて周囲の人間が一通り語る。
それをずっと聞いていないと、見ている方の準備が整わない。
台詞が物語を進めていくのだ。
そして、ストーリーを転がすにはうってつけの、というより、とってつけたような人間関係、のように僕には見える。
文筆家らしい若者が都合よく掘り明かすことで、状況が少しずつ晴れてくるのにも、耐えきれない。
唯一感情移入できたのは、主人公が父親が経営してきた街の電気屋を廃業して、TVゲームソフト屋を開店したところだ。
1997年であっても、そんな業態が通用したのであろうか。
エンドロールに松重豊の名があったが、気付かなかった。

国内の映画業界に名を轟かせた、市川準である。
「トキワ荘の青春」は観た。
よかったけど、これはどちらかというと「トキワ荘」ファンとしての感想だ。
よく振り返ってみると、「トニー滝谷」も村上春樹の小説を読んだうえで観たに過ぎない。
「あおげば尊し」はよくわからなったし、「あしたの私のつくり方」に至っては「既成事実」とまで呼んでしまった。
「大阪物語」は映画館で観た気がするけれど、よく覚えていない。
「つぐみ」も1996年に観たけど、要はマキセであり、中嶋朋子や白島靖代が出ていたことも、今となっては忘れてしまっている。

なんか怖くなってきた。
実は今、手元に「東京マリーゴールド」のDVDがあるのだ。

1週間後。
TSUTAYA DISCASで借りた「東京マリーゴールド」を観る。

前回観たのは、2001年7月7日。
場所は銀座の映画館、と記録がある。
ウェブによると、銀座シネパトスと思われる、といっても、何も記憶がない。
シネパトスという特異な場所で、田中麗奈主演の映画を観ていて、何も覚えていないのだから、もうどうしようもない。

観てみたけど、これがまた、全く理解できない。

フォーカスするべきは、烏龍茶を飲んで、みそ汁を飲んで、携帯電話を買うというところだ。
きっと、使っているPCはFM/Vで、カメラのフィルムはフジフィルムであろう。
監督が「今を時めく田中麗奈」と言っている通り、スポンサーには事欠かない。

またこの映画も、台詞での物語展開が続く。
それでも、映像描写でわからせる部分も比較的ある方だったかとは思う。
自分にとっては、全く無縁で、荒唐無稽のストーリーである、これは自分が悪い。
またキャッチボールだし、劇中で作成したCMを「このCMは傑作」と言ってしまっているし、このCMに似たような実際のCMに思い当たるのは、きっとここがオリジナルだからなのだろう。
寺尾聰がパルムを持って家に来た。

最後に、展開がある。
これも、台詞で説明がかなり補われる。
この展開をもってして、「だから、小澤征悦はずっと、東出昌大を彷彿させるような、ぎこちない演技のような振る舞いをしていたのか!!」とわかった、気がする。
ラストで示された事実をもってして、映画をもう一度観返し、田村目線で話を眺めるのは面白そうだが、そこまでの気力がない。
それよりも、「井の頭公園駅に自宅がある主人公が、横浜の法事に行くのに、なぜバスに乗るのか。駅で乗り換えのできるバス停で降りるのなら、なぜ東京からその駅へ鉄道で向かわないのか」ということが気になって、また話が入ってこない。
田村が何のためそういう行動をしていたのか、確定的な理由に思い至らず、現実感を持てなくて、自己嫌悪である。
最後の最後、まさか後ろ姿で走って母親に呼びかけたりしないだろうな、というベタベタの静止画エンディングじゃないことへの期待が裏切られ、泣きたくなる。
こうなると、サスペンスを通り過ぎ、ホラーともいえる。

美しい田中麗奈さんがキャッチボールしているエンディングに見とれていると、エンドロールに「井川修司」の名を見つける。
どこかで聞いたことのある名に感じ、イワイガワの井川さんであると思い当たる。
どこに出ていたかわからないまま続けて観ていると、「岡田ひとみ」の名が出てくる。
おねんどお姉さん、1980年はここにも逸材を誕生させていた!
後から調べると、井川さんは最初に出てくる、主人公の恋人役であった。
三輪明日美にはもう気付けないかもしれない。
石田ひかりの起用みたいなものがあるから、映画をまともに観られなくなるのだ。

美しい東京と、美しい田中麗奈さんがフィルムに収められている、というだけで、存在価値のある映画である。
歯科医院での治療シーンは、もう釘付けである。
「急いで歩いているからイソガニだよ、君はなにカニ?」

このDVDは、特典映像でも気もちが上がる。

まず、「ほんだし」のCM。
当時見ていた頃から貴重なCMだなと思っていた映像が、7パターンの60秒バージョンとして収録されている。
樹木希林の演技に、自然な様子で応じているように見える田中麗奈さんが、とてもほほえましく神々しい。
贅沢な体験、贅沢な瞬間である。

インタビューを見ていると、「ああ、あの時の扱われ方」というのを思い出す。
やはり、機会に恵まれた俳優である。

そして、東京MAP。
どうやって隠しメニューが出でくるのかよくわからないまま、メッセージを何度も見てしまう。
代官山が好き、というのが初々しい一方で、後の展開を知っている身として恵比寿が出てくるのは「うーん」とうなる。
並木橋などをみると、この映画に出てくる風景の多くが失われていることを思い知らされる。
生活をしていた風景だ。

全体的に暗い時代であり、それが自分の過ごした時代である。
自分より上の世代の無責任さといい加減さとうさん臭さに本当に腹が立つし、田中麗奈さんはかわいく美しい。
この後の小澤征悦のことを考えると、余計に腹が立つ。
そもそも、自分の名前を子供たちに与えることに、躊躇がなかったのだろうか。
僕らの世代が主役になるのは、結局孤独で行き詰った犯罪者として、しかないのか。
音楽が心地よくて、サウンドトラックを手に入れたい。
しおかぜ橋にも行ってみよう。

こうなると、怖いもの見たさというか、市川準を評価するには、「BU・SU」まで観ないといけないかもしれない。
ついでに「つぐみ」ももう一度観てみるか。
失ってしまった何かを、取り戻せるかもしれない。
取り戻したとて、しょうもないものだろうけど。
それにしても、「VRおじさんの初恋」の今週の最後の田中麗奈さんの顔、怖かったな。

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