曇天の続き

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2024-03-09 Sat.

蕪荒

2024-03-09

島山あらら先生のモデルと言われている漫画家の訃報が届いた。

島山あらら先生が登場する話が好きで、僕の街のジャンプ事情と似通っている「1日早く売る本屋」、プロの生活の様子が読者に対してふんだんに披露され、最後は教訓までくっついてくる。
連載を抱える漫画家と、連載を楽しみに待っている読者の関係が、すぐそばにあるように描かれている。

先週、「めぐみのラジオ」で「ワイワイワールド」が流れているの聴き、ドンチャカしている曲が心地よく、ぜひとも葬送の1曲に加えてほしい、と思った。
「感謝」などという言葉では到底表せきれないものをいただいた。

さて、最近映画を2本見た。
本当は、外出して映画館に行こうと考えていた。
ただ、なぜだかわからないが、鼻水が止まらず、目やにで目がかすみ、のどに痰が絡み、鼻の通りが悪くて頭が痛く、熱もないのに体がだるく、皮膚がぴりぴりとする、という奇病に見舞われており、原因不明の病気で外出するのも気が引けるので、家で映画を見ることにした。

1つは、「リボルバー」。
僕のことだから、当然洋画の方ではなく、佐藤正午原作、藤田敏八監督、出演は、沢田研二、手塚理美である。
初見である。

この作品を見れば、「柄本明と尾美としのりって、以前映画でがっつり共演していましたよね」というエピソードを得られる。
きれいな人だな、と思ったら、クレジットまでわからず、久しぶりに南條玲子を見た。
山田辰夫が出てきて、安心できるところがあった。

新刊の小説「冬に子供が生まれる」の書評が載っていたが、あらすじが説明されているようで、思わず読み飛ばしてしまう。
佐藤正午の小説を人に薦めるために筋を説明しようとすることほど、無為なこともなかろう。
彼の小説をストーリーテリングができる最適の人は、佐藤正午本人でしかないのだから。
そんなことを思いながら、書評の末尾に目をやると、評者本人も自分の行為の意味の否定を提示している。
本当に、何も言いたくないし、何も聞きたくない。
話の筋を楽しむには、佐藤正午が手掛けてくれる小説そのものを読むに限る。

もう1つは、「KAMIKAZE TAXI」。
アマゾンプライムビデオで、レンタルでHD400円で借りた。

記録によると、前回見たのは1998年7月30日である。
自宅で、VHSで見た。
律儀にもその時の感想が書き残っていて、この律義さは宮澤喜一の再来か、という評判も実際に耳にした。
それはどうでもいいとして、感想の内容は「そんなにおもしろくなかった」とあった。
「ありきたりな復讐に、社会派ネタを加えていた」とある。
「ただ、終わり方がよくて、タイトルとこの終わり方でこの映画は十分成立していた」と続く。

この頃は試験期間中で、この後は夏休み。
働きもしないし旅行にも出ないし、初めて過ごす東京の夏の膨大な時間を孤独にもてあまして、もちろん勉強もしないのに、迫ってくる9月の試験を憂鬱に恐れていた。
試験をクリアしないと次の展開が訪れないシステムを、痛烈に突き付けられていた。
そんな中のこんな感想なのだから、大目に見てもらいたい。
ちなみに、この日、小渕恵三が首班指名を受け、雨が降っていた。
日経平均が40K円を超えたのはきっと、あの時彼が蕪を持ち上げてくれた効果であろう。
よくもここまで来られたものだ。

実際見てみたら、話の筋を何も覚えていなかった。
何なら、途中まで「月はどっちに出ている」と、内容をごちゃごちゃにして覚えていた。
ただ、終わり方は26年たっても覚えていた通りで、1度不自然な形で出会わせておいた意味が効いていて、2度目に出会って意味も理解せぬまま行為を受けるというのが、そして最後の上からの引きの映像が、好きだ。

感想は、まず強盗に付き合わされる連れがかわいそうでならなかった。
無関係で無辜の人間が私怨に巻き込まれ、拙い計画のもと襲撃を加え、そりゃそうなるだろうという結末を迎えるのは、涙なしには見ていられなかった。
首謀者が生き延び、しかもほぼ自分のせいなのに復讐しようとするところも、自分勝手で許せない。
現代にも十分通じる話で、「闇バイト」とか、強盗実行犯の求人に応募しようとしている人たちに見ていただきたい映画だ。

高橋和也はよかったし、芸能界における矢島健一くらいの俳優の位置が、最も理想的であるように思える。
公開が1995年で、あの時はまだ前の戦争のことをかすかに感じることができていたのだろう。
30年近くたつと、その感覚がちょっとわからなくなってきていて、少し反省。
田口トモロヲがどこに出ていたかわからず、内藤武敏が小倉出身であることを今更知った。
ミッキー・カーチス演じる亜仁丸が実に筋の通ったキャラクターで、最期はもったいないように思えた。
亜仁丸の事務所の場所は、もしかしたら僕の自宅があった近くかもしれない。
飛行機が飛ばない理由は荒天であるはずだが、その晩の天気はそれほど悪くないものの、都合よく強い風が吹き、そこはもやもやした。
金をどうやって持っていこうとしたのかも気になるし、これからどうなるのかも気になる(ファンタジーとはいえ、出国できるのだろうか)。
一番上だけが腐っていて、他の登場人物のそれぞれの行動は実に合理的だった。

自宅のTVにBluetoothヘッドホンをつないで映画を見ると、台詞が聞き取れて、よい。
いい時代になった。

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