訪薩
帰省を兼ねて、旅に出ることにした。
旅のきっかけは、知人の話だった。
航空会社が提供するサイトがあり、そこで、航空券と宿泊地の予約を合わせてすれば、正規の航空料金よりも安くなる。
それなら、「帰省に絡めて旅に出ればよい」と考えた。
具体的な計画は、次の通り。
往路は、旅先近くの空港へ飛び、1泊する。
翌日、別途手配した交通手段で実家に向かう。
実家で2泊して、復路は実家の近くの空港から帰る。
旅先は、鹿児島に決めた。
当日。
朝の天気は、小雨。
忙しい中無理を言ってしまうことを心苦しく思うが、タクシー会社に電話し、駅まで向かう車を予約した。
高速バスで、羽田空港を目指す。
車中では、NHK FM「クラシック・カフェ」を聴き、心を整える。
つまみは、日本百貨店で購入した「せんじにく」。
渋滞のため、予定より20分ほどの遅れて、羽田空港に到着。
今日は、第2ターミナル。
2017年4月に伊丹空港に行った時以来の利用となる。
フライト時刻まで、2時間以上ある。
5階まで行って飛行機を見たり、3階のPlazaでキャラクターグッズを見たり、1階まで行っておもちゃを見たりする。
おもちゃを扱う店の隣で弁当を売っていたので、購入。
フライト時刻の1時間以上前に、保安検査場の通過を済ませる。
搭乗口の番号が509だと知り、愕然とする。
それでも気を取り直し、500mlの缶ビールを購入し、席を見つけて、食事。
昼食は、叙々苑の牛焼肉重弁当。
年末帰省用の弁当である、特製焼肉弁当は、予算の都合上買えなかった。
30分前に搭乗口へ着く。
危惧したとおり、バスに乗ることになった。
バスは乗り場を出発して左側へと向かい、ある建物の前に到着。
中に入ると、建てられたばかり特有のにおいがして、すこし気分が悪くなる。
エスカレータで階上へ向かい、そこから航空機に搭乗する。
後で知ったのだが、タラップの代わりに設置された「ボーディングステーション」であった。
鹿児島空港へ向かう航空機は、エアバス321。
Wi-Fiも使えるらしいが、この日はトラブルとかで、使用することができなかった。
機内安全ビデオは、歌舞伎調。
席が窓側ではなかったのでよくわからなかったが、おそらくC滑走路から離陸。
早速、機内コンテンツを楽しむ。
まずは、神田松之丞の講談。
聴き始めて数分で寝てしまう。
気持ちよく寝ていたら、「富士山が見える」というどうでもいい声で起こされて、もうどうでもよくなって、聴くのをやめる。
次に、宮脇俊三 電子全集16「乗る旅・読む旅」をKindleで読む。
旅に全集を持ち歩くことができる文明に感謝する。
キャビンアテンダントにコンソメスープを頼むと、「後でお持ちします」と言い渡される。
持ってきてもらったコンソメスープはカップが冷たくて、「冷製スープかな」と思って飲んでみると、甘い。
「すみません、アップルジュースを渡してしまいました」と、改めてコンソメスープを持ってきた。
色が一緒なので、わからなかった。
さらに暇なので、ビデオオンデマンドでバイきんぐのコントライブ「クローバー」を見る。
こんなにビデオが充実しているのに、というか、充実しているから、というか、普段と変わらない行動にいささかげんなりする。
とにかく、バイきんぐのコントに大満足。
「翼の王国」を全ページくまなく読み終えたところで、鹿児島空港に到着。
…暑い。
朝、自宅の窓を開けると少し肌寒くて、服装に悩んだのだが、半袖で正解だった。
目を疑う高さの運賃を支払い、高速バスで市街を目指す。
先日の集中豪雨で、高速道はところどころがけ崩れを起こしていた。
radikoで地元のFMを聴きつつ、40分ほどで鹿児島中央駅前のバスターミナルに到着。
鹿児島は、実に11年ぶり。
駅前では、「鶏のから揚げフェス」なるものが開催されていた。
暑い中で、唐揚げを食べながらビールを楽しむなど、この世の極楽としか思えないのだが、今は我慢。
駅ビルの地下に向かい、本日2回目の昼食、ご当地のラーメンをいただく。
豚骨のスープはやはりすっきりとしていて、刻まれたキャベツとチャーシューがうまい。
干ししいたけのだしも効いている。
ただ、麺が少し白っぽく固めで、これは自分の好みとは異なっていた。
ところで、駅ビルに「SHIBUYA109 KAGOSHIMA」があるのは、「ラフォーレ原宿 小倉」を抱えていた北九州市民としては、やりきれない気持ちになる。
指宿枕崎線の普通列車に乗り、指宿を目指す。
列車は学生で混雑していたが、進行方向右側の席を確保できた。
天候は晴れに向かっており、自分の席とは反対側の車窓には、錦江湾と桜島、遠くに霧島連峰が望む雄大な景色が広がっていた。
レンタカーではなく列車を選んでよかった、と強く思う。
1時間半ほどかかり、指宿に到着。
迎えに来た宿の車に乗り込む。
本日の宿は、11年前に泊まった宿と同じである。
なので、11年前にも見たはずの景色なのだが、何も覚えていない。
夕食まで時間があるので、海岸を散策する。
砂浜に打ち上げられた石を拾ってみると、軽い。
海にいくつか投げてみたが、軽いので海面に浮いてしまう。
夕食は、黒豚しゃぶしゃぶ。
程よい量で、黒千代香も十分に楽しんだ。
露天風呂につかり、疲れをいやす。
脱衣所に置いてあった、漢方薬を煎じた飲み物だけが、11年前の記憶とリンクした。