悲劇
「8分のバニラ eden」というフレーズで検索すると、検索結果にあるウェブサイトが現れた。
記述によると、著者は誕生日を迎えるに当たって、昔聴いていた曲を2曲思いだし、検索したのだという。
その1曲が8分のバニラの曲で、もう1曲の方は、有名ではないアーティストの有名ではない曲のようだった。
いつもなら、これ以上追求せずに読み流す。
しかし、今回に限って、8分のバニラを聴いていた人が、どういった曲を挙げているのか気になった。
似たような好みを持つ人の嗜好は、とても頼りになるからだ。
ウェブサイトはYouTubeにリンクされていたので、リンク先の映像を見てみることにした。
映像の最初に、「comedy and tragedy」という文字が映る。
鳥肌が立った。
まさにこれこそ、僕が10年以上探していた曲だ!
10年以上前、確か何かの深夜TV番組でこれがかかっているのを覚えていた。
「コメディ」「トラジェディ」というフレーズを覚えていて、誰が歌っているのかまでは気が回らなかった。
そこまで興味がなかったのか、CDを手に入れることはなかった。
ところが、時間が経っても曲のサビだけは忘れることがなく、何年も後にある日突如として思い出されることがあった。
曲の記憶はあるけれど、詳しいことは全くわからない。
この歌は一体誰が歌っているのか、何というタイトルなのか、ずっと気になっていた。
やがて、世の中は「ウェブ万能社会」になった。
検索エンジンが、記憶の断片の復元を手助けするようになった。
手がかりは、「コメディ」と「トラジェディ」という単語と、サビのメロディのごく一部しかなかった。
タイトルに「コメディ」と「トラジェディ」という単語が入っていたのは間違いないはずだ。
「コメディ」「トラジェディ」「comedy」「tragedy」というフレーズを検索エンジンに打ち込む。
しかし、該当する結果は見つからなかった。
この作業を2年に1度くらいの割合で続けていたのだが、欲しい情報は得られなかった。
せめてアーティスト名を覚えていれば、見つかっていたのかも知れない。
あるいは、タイトル名すら間違って覚えているのだろうか。
そう思うと、「なぜメモをしておかなかったのか」と悔やむ思いが募った。
この後悔と一生付き合っていくことになるのだ。
それが、ここに来て突然解決したのだ。
僕の人生において、こんな興奮はめったにない。
アーティスト名はBARGAINSである。
その名がわかっても、思い出すことは何一つない。
そして正式な曲名は何と、「コメディアンドトラジディ」だった。
道理で、「トラジェディ」で検索してもひっかからなかったわけだ。
「コメディアンドトラジティ」という記述もあるのだが、まさかね。
この曲を知ったのは、日本テレビの深夜ドラマ「出歯ガメ」の主題歌としてだった、ということもわかった。
そんな苦労をし、思いがけない形で再会することができた、BARGAINSの「コメディアンドトラジディ」。
聴いてみると…、今となってはまあ普通。