曇天の続き

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2010-06-07 Mon.

解体

2010-06-07

中学3年の時の担任教師は、他の教師と少し変わっていて、高校入試の研究に熱心に勤しんでいた。
国語教師であるこの教師は、進路指導の一環としてそれまでの国語の入試問題を全てデータベース化し、出題傾向を分析していた。
また、あらゆるものを数値化し、それを何とワープロで管理していた(まだ表計算ソフトが普及していない頃の話だ)。
生徒の成績は、もちろんそのワープロで管理していた。
また、宿題に出すワークブックは、問題数を数え、生徒がいくつ答えを書いたかを数え、誰にも文句を言わせない客観的な方法で評価していた。
265問あったとして、答えを全て書いていれば265点と採点していたのだ。
「風変わりな先生だな」とその当時の僕は思っていたし、他の教師からも不思議な目で見られていたようだ。
しかし、今思えば実に普通のことをかなり先取りしてやっていたように思う。
先生のおかげで、僕も適切な高校に進学できた。

その先生が、3月頃にいつも楽しみにしていたのが、「サンデー毎日」の発売だった。
その週刊誌に掲載される「高校別大学合格者数一覧」が目当てだった。
他の記事には興味がなかったため、1度書店に「入学者数が載っている部分だけコピーさせてもらえない?」と尋ねたことがある、と話していた。

なぜこんな話を持ち出すか、というと、電子書籍が当時の先生の要望を満足してくれるのではないかと思うからだ。

電子書籍の最大のメリットは、印刷工程が省けることにあると、僕は考える。
印刷分のコストが省かれ、携わる人の人件費が削減できるはずだ。
電子的に書かれた文章を電子書籍のフォーマットにする部分については、たぶん印刷よりは費用がかからないと推測する(サイトへのアイテム登録料が気になるが)。

それとは別にメリットとして期待するのは、記事のバラ売りだ。
今の時代、雑誌不況とはいうものの、書店に行くとかなりの数の雑誌が並んでいる。
ある分野に絞ったとしても、いくつも雑誌があり、資金力のない僕はどれを選んで買っていいのかわからない。
多様性は評価すべき事なのだが、やはり多すぎるし、それなりの淘汰が必要だと感じてしまう。
たちが悪いことに、読みたいのは雑誌の中でもほんの一部の特集記事やインタビューであることが多い。
雑誌に載っているすべての記事を買い取りたいとは、とても思えない。
だから結局、書店では立ち読みですましてしまい、自宅に帰って雑誌のウェブサイトを見て、記事のタイトルだけコピーしている状況だ。

電子書籍が普及すれば、CDのアルバムの配信同様、記事のバラ売りが可能になるはずだ。
記事のタイトルだけが無料で流通し、読者は必要に応じて記事を購入できるようになると思う。
日本経済新聞社の書籍部門が企業向けに記事のバラ売りをしているのを僕は利用しているが、電子書籍によりそれが一般にも普及するチャンスがあると思う。
出版社も、丸ごと売るよりも、身銭が稼げるのではないか。

ちなみに、件の先生は、1990年代前半の小倉の状況で、「今後、生徒指導をする際に、生徒を一切殴らない」と宣言して、実際にそれを貫き通した。
それまでに生徒指導も担当したことのある教師が、小倉の街中で非暴力を宣言し、それを実行したのだ。
僕は、ずいぶん後にこの行為のすごさに気付かされ、それゆえ、先生のことをとても尊敬している。

大学に合格したことを一番知らせたかったのは、この先生だった。
おそらく、僕の大学合格を最も喜んでくれたと思う。
でも、その報告は未だに実現していない。
小倉時代の教師でお会いしたいと僕が思う、数少ない先生の1人だ。

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