喚起
自宅の火災保険を更新することになり、保険代理店の人が休日に自宅まで足を運んでくれた。
「近所に来たついでだった」とはいえ、ありがたいことだ。
火災保険の保険料は、更新時期によって値段が異なる。
3か月前は3割増で更新の通知が来たのに、少し放っておくと、今度は前回より10%減の更新料が提示された。
何の説明もなく保険料を改訂され、いつも納得がいかない思いがする。
もっとも、その手の話は代理店の人とはしない。
むしろ、現状の代理店業の苦境をうかがい、僕が代理店業に転身する見込みはなくなったな、と悟る。
契約を一通り済ませると、「ところで生命保険は入っていらっしゃいますか」という話に。
常識的なプロトコルなので、話を伺うことにする。
主にガンの話。
初期発見が何より大事で、その発見は医師の技量や設備によって大きく差が出る、とのこと。
無念な死亡例を2、3出してもらう。
そして、最新の治療法についての説明。
巨大なサークルを使って、体に粒子をぶつけ、それでガンが治療できるとのこと。
それを受けるのに300万円かかるとか。
だから、先進医療保障を付けた方がよろしいのではないか、と。
最後に、「ガン保険に加入される方は、気をつけているから、結局ガンになりにくい」とのオチ。
「そちらの方が保険会社にとってもいいですよね」と僕は無駄口。
まるで、落語家のような代理店社員だった。
仕事とはいえ、僕のような若い者にまで丁寧に対応してもらい、恐縮です。
ただ、パンフレットは置いていかなかった。
昔、大学の教官に「知らないことは、その人にとって存在しないのと同じ」と言われた。
把握していないことは選択することもない、だから情報を知らない人に向けてその人に有益な情報を積極的に提供しよう、というニュアンスで語られた。
確かに。
それでも、「高度先進医療」について、僕はあまり知りたくない。
知ってしまえば、命に関わることなので手を尽くそうとしてしまうだろう。
といっても、所詮悪夢しか見ない人生、手を尽くしたところでどうなることだろう。
苦しまなくてすむのなら、そして身近な人が困らないのであれば、僕は早死にで全然構わない。
毎日、十分に楽しんで生きているし。