両替
忘年会シーズンである。
ところで、僕は普段から、千円札を少し多めに持ち、財布に入れている。
一方で、一万円札をほとんど持っていない。
五千円札は、手に入り次第優先的に使ってしまう。
二千円札は、ニセ二千円札を見分けることができないので、そもそも受け取らない。
なぜ、千円札を多く持っているか、というと、多くの自動販売機で千円札以外の紙幣が使えないからである。
1度、財布に紙幣が一万円札しかなく、小銭もなかったので、のどが渇いていたのに自動販売機で飲み物を買えなかったことがある。
金があっても、ものが目の前にあっても、それが手に入らないことがあると初めて実感した。
もう1つ理由があって、それは食事で割り勘をするときなどに困らずにすむからである。
千円札を多く持っていると、連れが持っている高額紙幣を両替できる。
お釣りがないからという理由での貸し借りで後に揉めるリスクを避けられる。
特に、忘年会シーズンだと、会費徴収の際に、お釣りで相手を困らせることがほとんどない。
他の参加者が一万円札しか持っていない場合にも、僕は進んで両替に応じることにしている。
バスの中で、見ず知らずの乗客の一万円札を何度崩したことだろう。
少し前に、こういうことがあった。
とある人は千円札を持っていないことが多く、飲み会の会費などを集める際、頻繁に「両替してほしい」と周りに呼びかけていた。
僕はたいていの場合申し出て、両替に応じた。
ある時、その人に言われた。
「なんで、いつもそんなにたくさん千円札を持ってんの?」
僕は、ほほえみでお茶を濁した。
が、心の中に芽生えた、普段は思うことのない感情を北九州弁ではっきり感じた。
「きさんごと、人を困らせるヤカラがおるからやろうが!!!! ノーミソあるんか!」
こういうとき、北九州弁ほど適切な表現ができる言葉を、僕は知らない。
なお、誤解を招かないように付け加えておくが、こういう感想を持ったことは生涯ただ1度である。
ほとんどの人は僕が千円札を多めに持っていることについて感想を表明することは別段なかったし、確かに何人かからは素直に感謝された。
でも、これはあくまでも自分のための備えなので、特に何とも思っていない。