甘味
甘いものがどうも苦手である。
子供の頃から、甘いものはどうも食いつけない。
親が甘い菓子をほとんど買い与えてくれなかったのも原因だと思う。
一人暮らしを始めた20代の頃、子供の頃に食べていなかった反動か、チョコレートやらアイスやらをコンビニエンスストアで購入することが日常化してしまった。
ケーキとかプリンとかシュークリームとかがこんなにおいしいものなんだ、と初めて気付いた。
この期間だけは、「甘い物好き」だったと言える。
ところがここ数年、「水曜どうでしょう」に出演する鈴井さんの甘いもの嫌いを見て、自分も甘いものを苦手に感じるようになってしまった。
おそらく、鈴井さんの苦悶の表情に感化されたのだろう。
全くもって、僕は人の影響を受けやすい。
而立に至りて、再び甘味遠のく。
ところで先日、東京都の浅草へ出かけた。
浅草へ行ったのは、途中下車を除外すると、およそ2年ぶりだと記憶する。
列車を下車して真っ先に甘栗店へ向かい、甘栗を購入。
新栗キャンペーンで、内容量を通常より30%増しにしていただいた。
持参したスタンプカードにスタンプを押してもらい、ご満悦。
「ぜひスタンプを全部貯めてください」と店員から激励を受ける。
あと34個、道は遠く険しい。
手水で手をそそぎ、線香の煙を体のいたるところへ浴びせかけ、浅草寺にお参りし(「南無観世音菩薩」)、浅草神社にお参りし(二拝二拍手一拝)、菊を愛で、胸の前で十字を切る。
これだけ分散投資すれば、おそらくどこかからかは御利益があるだろう。
適当に飯を食っても時間が余りに余っていたので、バーに行くことにした。
薄暗いバーのソファーに座り、オーダーを考える。
こういうところに来ると大体カクテルを注文してしまう。
メニューを見ると、オリジナルカクテルのパートに「浅草寺」という名のカクテルがある。
ウォッカベースなのでたぶん飲めるだろう、と思い、それを注文した。
そして、「浅草寺」が運ばれてくる。
僕はそれを口に含む。
…
それはとても甘かった。
味から察するに、おそらく梅酒が入っている。
あるいは、梅シロップかも知れない。
なるほど、浅草寺。
だから、ご当地カクテルを頼んではいけないのだ。
毎回失敗しているのに、貧乏性からか、ここでしか飲めないと思うとつい頼んでしまう。
連れがチョコレートをオーダーしていたので、少しつまんでみる。
案の定、甘さにもがき苦しんでしまった。
バーとは甘味処の側面もあるな、という思いが去来したまま、僕はバーを後にした。