馬陸
暇である。
きっと、世の中の仕事は優秀な人に集中し、無能な僕は社会から排除されているのだろう。
組織の指示に従っているつもりでも、指導者の意に沿うことは能わない。
自発的な仕事を求められても、アイデアに乏しいため、これまた期待にこたえられないようだ。
単純作業は機械がやってくれ、十分効率化されており、僕の出る幕はない。
先進的な技術は、不器用な労働者から仕事を奪う。
半端な僕の居場所がこの社会にはない。
なので、往々にして自宅のリビングで横になっている。
先日もリビングで横になっていた。
目を閉じて、何も見えない。
そして、嫌なことばかり思い出す。
僕には嫌な記憶しかない。
他の人には、いい記憶というものがあるのだろうか。
たとえ眠ったとしても、悪夢しか見ない。
目を開けた。
すると、すぐ目の前に不気味な生物がフローリングを這っていた。
体長30mm、胴回り5mm。
黒くて、節があって、数十本の脚がある。
ここ最近、この虫を頻繁に見るようになり、その度にティッシュでつまんで握りつぶしている。
この夏になって、もう30匹くらい駆除した。
アリの次は、この虫だ。
きっと、自宅裏に設置された6畳の庭、通称「草取り競技場」から侵入しているのだろう。
そして、僕の目が届かないこの家のどこかで数百匹の群となって、ごそごそうごめているのかもしれない。
夜中にリビングや寝室を縦横無尽にはいずり回っているのかも。
しかし、この虫の名前は何というのか。
調べるにも、自宅に図鑑がない。
虫に詳しい友人もいないので、誰に尋ねることもできない(そもそも僕には友人が少ない)。
「Yahoo! 知恵袋」で質問したら、見ず知らずの人に集中攻撃を受けるリスクがある。
なので、いつもの通りウェブで調べることにした。
「図鑑 虫」で検索したら、きっと図鑑サイトが見つかるはず。
検索したところ、様々な虫の写真が載っているサイトを見つけた。
これまた気味の悪い虫の写真を何十枚も見ることになり、ようやくお尋ねの虫の名がわかった。
その名とは、おそらくヤスデである、たぶん。
念のため、近所の図書館分館に行き、子供コーナーにあった昆虫図鑑で改めて確認した。
たぶん、ヤスデで間違いない。
この後、「ヤスデ 殲滅」というキーワードで検索したのは言うまでもない。