物忘
確か、中島らものエピソードだったと記憶している。
酔っぱらっているときに、作品のアイデアを思いつき、それがすばらしかったので、メモを書いておくことにした。
明くる日、酔いが覚めて改めてメモを見ると、そのメモには、
「冷蔵庫」
とだけ書いてあった。
中島らもは何も思い出せずイヤになったそうだ。
天才の閃きが作品として昇華することはなかった。
人類の極めて大きな芸術的損失の1つである。
僕は、普段からメモを取るようにしている。
やることを忘れないようにするためと、話のネタを蓄えるためである。
ネタの方は未だに有効活用されていない。
大抵のメモは、それを見てどういうことを書き残したかったのか思い出すことができる。
だが、中島らもにはとても及ばない僕も同様、酩酊している時に残したメモの意味がわからないで、困惑することがある。
最近それが顕著で、未だに意味不明な記述が3つもある。
1つは、「攻略する」とだけ書いてある。
いったい、何を攻略するつもりだったのだろう。
スパルタ国かSASUKEかたけし城でも攻略しようと決意したのだろうか。
2つ目は、「音声をデコード」。
たぶん、エンコードされた音声が自宅のどこかにあるのだと思う。
早く、デコードしなければならない。
でも、音声をデコードする方法がわからない。
3つ目は…、読めない。
字であることは間違いないのだが、何て書いてあるか読めないのだ。
僕の判読で無理矢理読むと、「拵州貿加」と読めなくもない。
ATOKの手書き文字入力で無理矢理文字にすると、「拓州奨加」となる。
「若林豪」の下に書いてあるので、たぶん「オールスター感謝祭」に関係することなのだと思う。
人類にとって何らかの損失はあったのかもしれないが、攻略されずに残ったものからメリットを受けることもあるだろうし、聞きたくもない音声がデコードされずにすんだのかもしれないし、ATOKの限界がわかったというだけでも儲けものである。