かっぱらーめんの最後の日
金曜日,何気なく西日暮里駅の脇道を通っていると,かっぱらーめん[web]に新しい張り紙.
普段から「今日はスープ不調につき休業」とか,「営業時間6時頃-9時頃」などとふざけた張り紙があるので「またかよ」という気持ちで見てみると,
6月29日をもって閉店します.
あまりにも突然のことで驚いた.6月29日って今日じゃないか! いつからこんな張り紙出してたんだ!!
この街に越してすぐ,かっぱらーめんを知った.あまりにもふさげた名前.曖昧な営業時間.突然の休業.「1度いかねば」と思い,ある夜足を運んだ.店には店主らしい迷彩のバンダナを巻いたおやじがひとり.40歳くらいだろう.水,おしぼりはセルフサービス.メニューはラーメンとチャーシューメンのみ.後はトッピングと油の量が選べる.油の量はいくつかの段階があり,最高レベルは「パニック」.横には胃腸薬が貼り付けてある.カウンターの前には「恐れ入りますが食べ終わった器は台の上に上げてください」の張り紙(本当に恐れ入ってるとは到底思えない).カウンターとは別になぜか休憩スペースも用意されている.ますますふざけた店だ.
ラーメンを頼む.おやじが麺をゆでる.湯をきる.出された器の中の具はチャーシューとモヤシ.スープは豚骨みたいだ.食べる.・・・うまい.ラーメンについて詳しいことは知らないけど,とにかくうまい.東京で食べたどんなラーメンとも違う.ただただうまいのだ.おやじがたばこに火を付ける.料理人がたばこなんて喫っちゃいけない.味がわかんなくなるからだ.でも,このおやじが喫うのだけはなぜか許せてしまう.
それから半年,僕はこのラーメン屋が開いているところをほとんど見なかった.ある時は「スープ不良」で休業.ある時は長期休暇.ある時は「本日終了」.9時頃閉店とあるのに8時半には大抵閉まってた.のれんのしまわれた店の前を見るたびに,僕はあのおやじのふざけた態度に焦燥を感じた.と同時になぜか満足もしていた.
そのかっぱらーめんが閉店するのだ.いつもと同じようにあのおやじのふざけた態度によって.
僕はよくかっぱらーめんのことを話していた知り合いにメールを出した.そして夜になると駅で待ち合わせをして店へと向かった.最後のかっぱラーメンの日だ.
8時30分を回っていたが店はかろうじて開いていた.一番奥の席に座るとおやじが「あじたま(味付け卵)は終了したよ」といった.「もう予約分しかないんだ」相変わらずふざけたおやじだ.僕はチャーシューメンを,知り合いはラーメンを頼んだ.
店には常連らしい客が4,5人集っていた.なんやかんや好き勝手なことを話している.新しく来た常連らしい客におやじが「今日で終わりなんですよ」と告げる.客は知らなかったらしく,一様に驚いている.本当に想像を絶するような店なのだ,ここは.
器が出てくる.2度目のかっぱらーめん.うまい.しかし,この味は最後なのだ.初めて食べる知り合いもうまいと言ってくれている.最後に連れてくることができて本当によかった.この店の記憶が僕だけの中にとどまることはないのだから.
席を立つとおやじが「お元気で」と言ってくれた.あんなにふざけたおやじと思っていたのに,寂しい気持ちがした.でも,僕は1つのチャンスを手にすることができたのだ.最後に食べることができたのだから後悔をすることはない.
のれんをくぐると,連れがつぶやいた.「何で『かっぱらーめん』なのかわかった」.僕が「何故?」と聞くと「あの人かっぱに似ているから」.全世界に安息と平和をもたらすような言葉だ.
今日,店の前を通ると内装工事をしていた.何人かの工事作業員の中に店主であるふざけたおやじがいた.店で立ってた格好とは違い,バンダナもしてなかった.このおやじを見ることも今日が最後なのだろうと思った.この人は何処へ行くのだろう.うまいラーメンを作れる能力を持っておきながら,多くの常連を抱えていながら店を閉めるこの人は何処に行くのだろう.さよならかっぱらーめん.
実は、某場所で再開したとの情報が、万能のウェブから得られた。 でも、閉店って書いてあるな…。
(2008-03-15)